第二十六話:練馬の残り香と、泥の反逆
練馬ヶ原の大戦が引き分けに終わり、チーかま軍が北区へと撤退した直後。
練馬ヶ原に眠る鉱脈の取り分と、今後の主導権を巡る協議の場において、誰もが予期せぬ激震が奔った。
「……サ・バ・ンナ殿。そして、ゆるる殿」
泥に塗れた大槌を肩に担ぎ、低く重い声を出したのは、これまで幾度となく共に血を流し、泥臭い防衛戦を戦い抜いてきた本蓮沼の主・陀下門であった。
「……何の真似だ、陀下門殿」
サ・バ・ンナが鋭い眼光を向ける。
陀下門の後ろには、本蓮沼の精鋭たちが殺気を孕んで立ち並び、これまで兄弟連合に向けられていた刃が、明確に二人へと向けられていた。
「『いい国をつくる』……それがワシの悲願だ。だがな、サ・バ・ンナ殿。埼玉の深海から戻ったお主らの力はあまりに強大になりすぎた。チーかま軍を追い払ったところで、次は常盤台と前野町による支配が始まるだけではないのか?」
「何を言っているのですか、陀下門殿! 我らは共に泥を噛み、チーかまの横暴と戦ってきた絆があるはずだ!」
ゆるるが前に出ようとするが、陀下門は大槌を地面に叩きつけ、凄まじい地鳴りを響かせた。
「絆などという甘い言葉で、本蓮沼の民の未来は守れん! この練馬の鉱脈も、本蓮沼が主導して管理する! サ・バ・ンナ、ゆるる……お主たちの天下など、ワシは認めんぞ!!」
本蓮沼による、突然の謀反。
戦後処理の隙を突いた陀下門の反旗により、直前まで背中を預け合っていた盟友同士が、練馬の血煙の中で真っ向から対峙することとなった。
「ぬおおおおっ!!」
巨躯を躍らせ、泥を撒き散らしながら一直線に突進してくる陀下門。
その大槌の一撃は、まさに本蓮沼の凄まじい執念が乗った一撃であった。
「くっ……! 正気に戻れ、陀下門殿!!」
サ・バ・ンナは大剣を交差させて泥臭くその一撃を受け止めるが、肉弾戦の鬼である陀下門の力任せの押し込みに、足元がずりずりと削れていく。
「兄上! 説得は無用です! 今のあやつは、本蓮沼の欲望と意地に呑まれている!」
ゆるるが鋭い身こなしで側面から槍を突き出すが、陀下門は分厚い肉体と甲冑でそれを受け止め、力任せに振り払いながら叫ぶ。
「ハッハハ! サ・バ・ンナなど恐るるに足らん! 泥の強さはワシが一番よく知っておるわい!!」
昨日の友が、今日の宿敵へ。
チーかま軍という巨大な敵を退けた途端に巻き起こった「兄弟連合 vs 陀下門」の壮絶な泥試合。
練馬ヶ原の戦後は、さらなる混乱の渦へと呑み込まれていくのだった。




