第二十一話:練馬ヶ原の閃光、波乱の前夜
「補給材料の確保……? 紋派、一体どこへ向かうっていうのよ」
足立と江戸川を制し、ついに東の地を手中に収めたチーかま軍。
しかし、連戦による兵糧の摩耗と、チーかま兵器の製造に必要な資材の枯渇は限界に達していた。北区の本陣で地図を広げた紋派が指し示したのは、西に広がる広大な未開の地――練馬国・練馬ヶ原であった。
「練馬ヶ原……ただススキが寒風に揺れるだけの、退屈で何もなさそうな平原じゃない」
チィが呆れたように鼻で笑うと、紋派はメガネの奥の瞳を妖しく光らせた。
「表面に騙されてはなりません、チィ様。あの大平原の地下には、我らの兵器を無限に生み出す鉄、ボーキサイト、銅鉱石、亜鉛……そして炉を絶やさぬ石炭が、手つかずのまま眠りについております。あの『資源の宝庫』さえ手に入れば、我がチーかま軍の覇道は不動のものとなります」
「な、なんですって……!? それ、アタシたちが全部独占したら……都の頂点どころか天下統一じゃない!」
だが、その膨大な資源の存在に気づいていたのは、チーかま軍だけではなかった。
「……サ・バ・ンナ兄上。チーかま軍が江戸川を奪い返した勢いそのまま、西の『練馬ヶ原』へ全軍を回そうとしております」
前野町の陣地にて、傷を癒やしたゆるるが兄に報告する。
地頭を痛めたサ・バ・ンナは、己の泥臭い拳をぎゅっと握りしめた。
「練馬ヶ原か……。あそこの地下資源がチーかま軍の手に渡れば、奴らの粘着兵器と物量は手のつけようがなくなる。海底民族の力と、俺たちの肉弾戦で……奴らより先にあの平原を押さえるぞ!」
「ああ! 陀下門殿の傷も癒えつつある。ときわ台・前野町・本蓮沼の連合で、練馬へ殴り込みだ!」
さらに、その波紋は全勢力へと波及していた。
成増の山頂寺院で息を潜めていたちくわぶ法王は、ずり落ちる法衣を直しながら不気味に舌なめずりをした。
「ふふふ……煮込んでも汁を吸わぬ練馬の鉄と石炭か。あれさえ奪えば、我が成増の寺社勢力は不滅の要塞となる……!」
そして千代田。
品川から威圧をかけ続けるペンネ上皇もまた、重装パスタ兵団を従え、漆黒の瞳で練馬の方角を睨みつけていた。
「パスタの窯を燃やす石炭と、兵器を鍛える鉄……。チーかま風情に渡すわけにはいかないわね」
静寂に包まれた練馬ヶ原。
渡る風に、銀色のススキが一斉にザザーッと音を立てて揺れる。
誰も見向きもしなかったただの大平原は今、都の全勢力が喉から手が出るほど欲する「激戦の地」へと変貌を遂げようとしていた。
チーかま軍、サ・バ・ンナ&ゆるる兄弟連合、成増のちくわぶ法王、そして品川のペンネ上皇——。
欲望と陣営のプライドが渦巻く中、全勢力の視線がただ一点、「練馬ヶ原」へと集束する。
激突の瞬間を前に、ススキの海は嵐の前触れのように不気味に揺れ続けていた。




