第十七話:撤退の泥濘と、ペンネ上皇の雷鳴
東の空を貫いた青き光柱と、地底から湧き出る海底民族の激流。
さらに西からは、息を吹き返した本蓮沼の陀下門と前野町のゆるるが怒涛の反撃を開始していた。
「チィ様! 駄目です、足立から江戸川へと戦線を広げすぎたため、北区からの補給線が完全に途絶しました! このまま挟み撃ちを受ければ、我が軍は全滅いたします!」
冷徹な参謀・紋派の顔に、初めて焦りの色が浮かぶ。
海底民族の圧倒的な水流の前に、自慢のチーかま粘着兵器も不発。陣地は次々と海底の軍勢に飲み込まれていく。
「な、なんですって!? アタシたちが負けるっていうの!? 冗談じゃないわよ!」
陣輿の上で叫ぶチィだったが、眼下ではサ・バ・ンナが青き三叉槍を構え、一直線にチィの首級を狙って突進してきていた。
「チィ! 千代田での借りを、ここで返してもらうぞ!」
「ひ、ひぇぇぇっ! 紋派! 退却よ! 退却〜〜〜っ!!」
チィの金切り声のような悲鳴が響き渡る。
紋派は即座に殿の陣を張り、莫大な物資と勝ち得たばかりの江戸川自治区をすべて投げ捨てて、北区本陣への全面撤退を余儀なくされたのだった。
サ・バ・ンナと海底民族は江戸川自治区の見事な防衛・解放を果たしたが、チーかま軍の電撃的な撤退と紋派の周到な殿によって、チーかま軍の滅亡(チィの討伐)までは届かなかった。
数日後——千代田・朝廷本部。
江戸川自治区を失い、ボロボロになって逃げ帰ってきたチィと紋派。
しかし、彼らを待ち受けていたのは、サ・バ・ンナ以上の恐怖であった。
「……で? 『官軍』を気取って調子に乗っておきながら、魚くさい連中に負けて逃げ帰ってきた……と?」
朝廷の大広間。豪華な椅子に深々と腰掛け、上等なパスタをフォークに巻きつけながら二人を見下ろしているのは、品川から直々に武力行使のために乗り込んできたペンネ上皇であった。
その背後には、品川の大和港から引き連れてきた重装パスタ兵団がずらりと立ち並び、圧巻の圧力を放っいる。
「ひ、ヒィィっ……! ペンネ様! あれは不可抗力と言いますか、海底からへんてこな怪物どもが急に出てきて……!」
言い訳をしようとするチィに、ペンネ上皇の鋭い一撃(フォークの先から放たれる圧倒的な覇気)が飛ぶ。
「黙りなさいチーかま風情が!! 誰の許可を得て戦線を広げ、朝廷の名に泥を塗っているの!? 今すぐ品川に最高級チーズ樽を500個献上しなさい! さもなくば、この千代田を品川の大砲で更地にしてやるわ!!」
「ご、500樽ぇぇぇぇっ!?」
ちくわ天皇は「ひぃっ! 母上が本気で怒ってる〜〜!」と座布団の陰でガタガタと震え、かまぼこ親王は「今日の品川のパスタ、美味しそうですね……」と相変わらずの空気ぶり。
敗北を喫したチーかま軍は、命からがら滅亡こそ免れたものの、サ・バ・ンナの脅威とペンネ上皇の理不尽な圧搾という「内外からの挟み撃ち」によって、かつてない窮地に立たされるのであった。




