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第十六話:江戸川の鳴動と、電撃の反撃作戦

「サ、サ・バ・ンナ……!? 埼玉の荒野で死んだはずでは……!?」

豪華な陣輿の上で、チィは手にしたワイングラスをガタガタと震わせていた。

目の前に聳え立つのは、埼玉の極寒を生き抜き、深海の異能「海底民族」を従えて地上へ舞い戻ったサ・バ・ンナの姿である。

「フン、チィ。俺を埼玉の果てに追いやれば終わりだと思ったか? 俺たちの情熱は、深海の底でも消えはしない!」

サ・バ・ンナが掲げた青く輝く三叉の槍に応えるように、数千の海底民族の兵たちが一斉に海底の咆哮を上げた。その重低音は地表を揺らし、破竹の勢いだったチーかま軍の脚をすくませる。

「くっ……! 狼狽えるな、全軍動揺するな!」

参謀の紋派が即座に前線へ躍り出、冷徹な声で陣形を立て直そうとする。

「チィ様、落ち着いてください。奴らの数は我がチーかま軍の全軍に比べればまだ一部。朝廷の旗印を掲げる我らが後れを取る道理はありません!」

「そ、そうよ! アタシたちは官軍なのよ! どこから湧いて出たか分からない魚くさい連中に負けるわけないじゃない! やりなさい、紋派!」

チィの叫びとともに、チーかま軍は粘着チーズ矢と堅固な練り物甲冑で海底の軍勢を迎え撃つ。

しかし、江戸川の地下水路から次々と湧き出る海底民族は、深海の高圧に耐え抜いた肉体と激流を纏う槍術を持ち、チーかま軍の第一陣を容易く押し返していった。

「サ・バ・ンナ様! 地上のチーかま軍は戦線を広げすぎ、この江戸川では補給線が伸びきっております!」

海底民族の側近が叫ぶと、サ・バ・ンナはニヤリと不敵に笑った。

「分かっている。狙うはチーかま軍の分断……そして、耐え続けている本蓮沼の陀下門殿と、前野町のゆるるへの合図だ!」

サ・バ・ンナは深海の光を纏った大矢を、江戸川の空高くへと打ち上げた。

青く巨大な光の柱が、都の東の空を眩しく貫く。

その頃――西の防衛線。

泥まみれになりながらチーかま軍の猛攻を耐え抜いていた本蓮沼の陀下門と、前野町のゆるる。

ふと東の空を見上げた二人の目に、巨大な青い光の柱が飛び込んできた。

「な、なんだあの光は……!? 江戸川の方角から……!?」

「……間違いない、あの覇気……兄上だ! 兄上が生きて戻られたのだ!」

ゆるるの瞳に熱い涙と確信の炎が宿る。

陀下門もまた、泥に塗れた太刀を力強く握り直し、腹の底から咆哮した。

「ハッハハ! 聞いたか野郎ども! 埼玉から化け物が舞い戻ってきたぞ! 耐久陣地はここまでだ……全軍、反撃の打って出を開始せよ!!」

「「「おーっ!!!」」」

東の江戸川で始まったサ・バ・ンナの強襲と、西の本蓮沼・常盤台による死守からの挟み撃ち。

彼らの猛反撃を前に、チーかま政権の完璧だった盤面が、少しづつ揺らぎ始めるのだった。

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