第十五話:破竹の怒濤と、深海からの鼓動
「足立を落とした? ふふん、まあアタシたちの手にかかれば当然の結果ね!」
足立自治区の平定報告を受け、北区の本陣でワイングラスを片手に高笑いするのは、総大将チィであった。
戦術の細かな組み立てや書類仕事はすべて参謀の紋派に丸投げしていたものの、陣営の勢いを加速させているのは、紛れもなく彼女の圧倒的なド派手さとカリスマ性であった。
「チィ様、おしゃべりはそのくらいにして次の指示を。足立を抑えた今、東の残る壁は江戸川自治区のみです」
紋派が冷淡に地図を広げると、チィは豪快に胸を張って指を突きつける。
「決まってるじゃない! この勢いのまま江戸川も一気に呑み込むわよ! 朝廷の威光をバッチリ笠に着て、練り物界の真の頂点はアタシたちチーかま軍だってことを都中に知らしめてやるの!」
「御意。では、全軍を挙げて江戸川自治区への大規模侵攻を開始します」
チィの直感的な豪胆さと紋派の精密な計算が噛み合い、チーかま軍は足立から勢いそのままに江戸川自治区へとなだれ込んだ。
「ひ、ひぇぇっ! 朝廷の官軍だー! チーかま軍が押し寄せてきたぞー!」
朝廷の「治安維持」というお墨付きを得たチーかま軍の進撃はまさに破竹の勢い。江戸川自治区の原住民たちは、地上を埋め尽くすチーかま軍の威容に言葉を失い、防衛線は瞬く間に破られようとしていた。
チィは豪華な陣輿の上から、攻め入る自軍を満足そうに見下ろす。
「ハッハー! 見なさい紋派! 都の東はもう全部アタシたちのものよ! 常盤台のサ・バ・ンナも埼玉のどこかで野垂れ死んだことだし、もうアタシたちに敵なんて……」
その時であった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
突如として、江戸川の地上全体を激震が襲った。
地震とも雷とも異なる、地底深くから響き渡る重低音。進撃していたチーかま軍の兵たちが足元をすくわれ、ざわめきが広がる。
「な、何事かしら!? 紋派、何が起きてるの!?」
「……チィ様、落ち着いてください。揺れの水源は……真下です」
ドッゴォォォォン!!
江戸川の地面が大きく割れ、巨大な水柱とともに、青く眩い光を纏った軍勢が地上へと破竹の勢いで浮上してきた。
「お前たちの天下も……ここまでだ、モ・ト・ハ・チィ!!」
水煙の向こうから現れたのは、深海の鎧を身に纏い、眼光を激しく燃やした男——サ・バ・ンナ。そしてその背後には、異形の槍を掲げた海底民族の精鋭部隊がズラリと立ち並んでいた。
「なっ……!? サ、サ・バ・ンナ!? 埼玉で野犬の餌になったんじゃなかったの!?」
チィの目玉が飛び出んばかりに見開かれる。
地上を制しつつあったチーかま軍と、地下から舞い戻った漆黒の狼。
江戸川の地で、ついに運命の逆襲劇が幕を開けるのだった。




