失踪
帰り道。
愛美の言葉が、頭から離れない。
夜の街を歩きながら、由美は自問自答していた。
――私が怖いのは。
――タケルに怒られる事?
違う。
由美はゆっくり首を振る。
怖いのは。
タケルの中が変わった事だ。
あれだけドジだったタケル。
鍵を忘れ。
時間を間違え。
そんな人だった。
なのに。
あの日以来。
タケルは、一つもミスをしていない。
完璧すぎる。
――なぜ?
由美の呼吸が浅くなる。
――タケルは。
――何を考えてるの?
由美は足早にタクシーへ乗り込んだ。
まるで。
何かから逃げるように。
タクシーが止まるより早く、由美はドアを開けて外へ飛び出した。
「ありがとうございました!」
ほとんど叫ぶように言いながら、玄関へ駆け込む。
鍵を開ける。
ドアを乱暴に開く。
「タケル!」
返事は無い。
「春人!!」
静まり返った家。
由美の心臓が激しく脈打つ。
靴も脱がず、家の中を走る。
リビング。
誰もいない。
寝室。
浴室。
真っ暗。
「タケル!!」
由美は震える手でスマホを取り出す。
タケルへ電話をかける。
プルルルル……。
その瞬間。
近くで着信音が鳴った。
音のする方へゆっくり近づく。
ベビーベッド。
そこに。
タケルのスマホが置かれていた。
由美の呼吸が止まる。
「……どうして?」
スマホだけが、静かに鳴り続けていた。
それから由美は、狂ったように電話をかけ続けた。
知人。
会社。
タケルの同僚。
よく行く店。
「タケル来てませんか!?」
だが。
誰も二人を見ていない。
どこにもいない。
由美は徐々に、自分の身体から血の気が抜けていくのを感じていた。
胸が苦しい。
嫌な予感だけが、どんどん膨らんでいく。
深夜0時。
それでも。
二人は帰ってこなかった。
由美はふらつきながらキッチンへ向かう。
無意識だった。
帰ってくるはずの春人へ、ミルクを作ろうとしていた。
哺乳瓶。
粉ミルク。
お湯。
その時だった。
テーブルの上に、一通の封筒が置かれている事に気づく。
白い封筒。
DNA検査機関のロゴ。
由美の指先が震える。
嫌な予感。
ゆっくり封を開ける。
中の紙を見る。
そして。
由美の目が見開かれた。
『伊藤タケル様』
『DNA親子鑑定結果』
『親子関係は認められません』
由美の呼吸が止まる。
「……違う」
「違う……!」
由美は紙を握りしめたまま、階段を駆け上がった。
タケルの書斎。
ドアを開ける。
机。
引き出し。
空だった。
ノートパソコン。
ファイル。
資料。
全て消えている。
由美はその場で立ち尽くす。
タケルは。
準備していたんだ。
最初から。
由美は震える手でスマホを取り出した。
何度も指が滑る。
ようやく通話ボタンを押す。
『はい、110番です』
由美は泣きながら叫んだ。
「もしもし、警察ですか!?」
「私の」
「私の子どもがさらわれました!!」




