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見破る男  作者: パンジ
4/22

疑惑

夕方。


タケルはワゴン車へ乗り込み、帰路につく。


窓の外では横浜の夜景が流れていた。


その時だった。


ふと。


タケルの脳裏に、アキラが最後に言った言葉が浮かぶ。


『床に映る光まで計算したデザインは、もはや芸術だってなぁ!!』


タケルの表情が止まる。


ステンドグラス・・・


タケルの目が大きく開く。どうして・・。


信号が青へ変わる。


だが。


タケルの車は動かなかった。


後ろからクラクションが鳴る。


一回。


二回。


三回。


それでもタケルは、ハンドルを握ったまま微動だにしない。


顔から血の気が引いていく。


「そんな……」


タケルの喉から、掠れた声だけが漏れた。



深夜0時。


タケルはようやく自宅へ戻った。


住宅街は静まり返っている。


窓の灯りもほとんど消えていた。


車を降りる。


タケルの足取りはふらついていた。


手には、半分以上空になったウィスキー瓶。


玄関へ近づいた瞬間。


ドアが勢いよく開く。


「ちょっと!」


由美だった。


慌てて飛び出してくる。


「こんな時間まで何してたの!?」


「電話も返さないし!」


由美は心配そうにタケルを見る。


だが。


タケルは何も答えない。


「……一人で酒飲んでた」


それだけ言う。


アルコールの匂いが強かった。


タケルは靴も揃えず、そのままリビングへ入っていく。


「ちょっと、その状態で運転してきたの?」


「ねぇ、聞いてる?」


由美が後を追う。


タケルはソファへ崩れ落ちるように座った。


ぼんやり虚空を見つめている。


由美はタケルの手からウィスキー瓶を取ろうとした。


その瞬間。


バシッ。


タケルは大きく腕を振り払った。


「っ……!」


由美が固まる。


出会ってから今まで。


タケルが由美へ暴力を振るった事など、一度も無かった。


だが。


タケルは謝らない。


由美は怯えたように数歩下がる。


それでも視線は逸らさなかった。


「何があったの?」


声が震えている。


「ちゃんと説明して」


タケルはゆっくり顔を上げた。


目が虚ろだった。


そして。


静かな声で言った。


「……アキラさんってさ」


「この家に来たの、完成した時だけだったよな?」


由美の眉が動く。


「……それがどうしたのよ」


「今日、アキラさんが言ってたんだよ」


「うちのステンドグラスの光を取り込んだデザインが芸術だって」


由美の表情が止まる。


「床に映る光まで計算してるって」


沈黙。


由美は口を開く。


「……それが」


だが。


その言葉の途中で、固まった。


タケルはソファに座ったまま、ゆっくり顔を上げる。


そして。


どこか壊れたように、薄く笑った。


「……三年前の夏」


「この家が完成した時」


タケルは虚ろな目でステンドグラスの窓を見る。


「材料が間に合わなくて」


「最初は、普通の透明な窓だったよね?」


由美は何も言わない。


タケルは続ける。


「けっきょく、ステンドグラスが完成したのは冬だった」


由美が言葉を遮る。


「まだアキラさんとの事、疑ってるの!?」


その声には、怒りと悲しみが混ざっていた。


「昨日、何もないって説明したじゃない!」


沈黙。


タケルはゆっくり由美を見る。


「なら、どうしてアキラさんはステンドグラスのことを知ってる?」


由美の呼吸が浅くなる。


「それは……」


タケルは言葉を重ねる。


「この家に来てるからじゃないのかい?」


次の瞬間。


パシンッ!!


由美の平手が、タケルの頬を叩いた。


「いい加減にして!!」


由美の目には涙が浮かんでいた。


「アキラさんには、写真を見せただけよ!」


「どうして私を信じられないの!?」


タケルはそれでも由美から目線をそらさない。


「写真? あの人が、写真を見ただけで芸術なんて表現するかな?」


由美は何も言い返さない。


かわりに由美は荒く息をしながら立ち尽くす。


その後ろでは、春人が目を覚まし、小さく泣き始めていた。


由美は慌てて春人を抱き上げる。


そして。


タケルを睨むように見たあと、そのままリビングを出ていった。


向かった先は、自分のアトリエだった。


ドアが閉まる音。


春人の泣き声。


タケルは後を追わなかった。


ただ。


ソファに座ったまま。


ステンドグラスの窓を見つめ続けていた。

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