真実
バンッ!!
屋上の扉が勢いよく開く。
由美は息を切らしながら立ち尽くした。
月明かり。
海風。
錆びた鉄の匂い。
その中央に。
伊藤タケルは立っていた。
春人を抱いたまま。
屋上の縁に立っていた。
そして。
三メートルほど離れた場所には、真島アキラが転がされていた。
手足を縛られ。
口元から血を流しながら。
長い沈黙。
誰も動かない。
ただ。
由美とタケルだけが、互いを見つめ合っていた。
最初に沈黙を破ったのはアキラだった。
「由美!!」
「早く縄を解いてくれ!!」
「頼む!!」
だが。
由美は微動だにしなかった。
その時。
バンッ!!
再び屋上の扉が開く。
田中刑事だった。
田中は即座に拳銃を抜き、タケルへ向ける。
「伊藤タケル!!」
タケルの目が鋭くなる。
「近づくな!!」
タケルが吠える。
「もし近づいたら、子どもを落とすぞ!!」
その声に、田中の動きが止まる。
春人はタケルの腕の中にいる。
少しでも刺激すれば。
本当に落ちる。
田中は銃を構えたまま動けなかった。
海風だけが吹く。
由美の目から涙が零れ落ちる。
「タケル……」
「私は、どうしたらいいの……?」
掠れた声。
タケルは静かに答えた。
「由美」
「僕の要求は、一つだ」
タケルの目が、真っ直ぐ由美を見る。
「命を助けたかったら」
「この子の本当の父親を殺せ」
沈黙。
由美はゆっくり頷いた。
「……わかったわ」
田中の顔色が変わる。
「おい!!」
由美は静かにアキラの方へ歩いていく。
アキラが青ざめる。
「お、おい!!」
「何する気だ!!?」
「やめろ!!」
「頼む!!」
「殺さないでくれ!!」
田中が叫ぶ。
「よせ!!」
だが。
由美はアキラの前で止まった。
そして。
ゆっくりタケルの方へ向き直る。
由美は、ただタケルを見つめていた。
涙を流しながら。
タケルは静かに聞く。
「……これが」
「真実なんだね?」
由美は、ゆっくり頷いた。
「タケル、あなたを殺すわ」
長い沈黙。
やがてタケルは。
そっと春人を由美へ渡した。
春人の小さな目が、由美を見つめる。
由美は震える手で春人を抱き締めた。
その瞬間。
糸が切れたように、タケルは静かに後ろへ倒れた。
「タケル!!!!!」
数秒後。
ドシャァァン――!!
海へタケルが落ちる音だけが響く。
田中が屋上の縁へ駆け寄る。
「馬鹿野郎ッ!!」
だが。
暗い海の中に、タケルの姿は見えなかった。
由美は春人を抱き締めたまま、崩れ落ちた。
泣き声だけが、夜の港へ響き続けていた。




