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見破る男  作者: パンジ
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13/22

心理

取調室のドアが開く。


田中刑事が、重い足取りで廊下へ出てきた。


その瞬間。


壁にもたれていた男が顔を上げる。


吉井刑事だった。


ボサボサの髪。


無精髭。


「……裏で聞いてたのか?」


吉井は小さく頷いた。


「愛美」


「共犯の可能性あるな」


田中の手が止まる。


「どうしてそう思う?」


吉井はタブレットを差し出した。


「ここ一ヶ月」


「愛美名義で、レンタカーとウィークリーマンションが複数契約されてる」


画面には契約記録がずらりと並んでいた。


「タケルは多分、それを利用して隠れている」


田中が資料を見る。


静かに頷く。


「……なるほどな」


「それに」


田中が続ける。


「タケルと春人が消えた日」


「愛美は、由美と会っていた」


吉井が田中を見る。


「ただの人質って感じじゃないよな」


しばらく沈黙が流れる。


吉井がぽつりと言った。


「それにしても……」


「タケルがここまでする意図が分からん」


田中は煙草へ火をつける。


「まあ普通なら」


煙を吐く。


「妻か浮気相手に直接、危害を加えて終わりだろうな」


「もしくは無理心中か」


「だが、あいつは妙に回りくどい」


吉井は苦笑する。


「わざわざ警察をあおり、爆弾まで使う」


「意味分かんねぇな」


田中は黙っていた。


そして小さく呟く。


「……常人には理解できない何かに執着してるんだろうな」


吉井が顔を上げる。


「由美に会わせてもらえないか?」


「タケルの考え、少し理解できるかもしれん」


田中は吉井を見る。


「その前にシャワー浴びてこい」


「臭ぇぞ」


吉井はボサボサの頭を掻きながら笑う。



タケルの自宅。


二階のゲストルーム。


カーテンは閉められ、部屋には薄暗い空気が漂っていた。


由美はソファへ座っている。


顔色は悪く、髪も乱れていた。


ここ数日で、一気に痩せたように見える。


向かいには吉井刑事。


軽く挨拶を交わしたあと、吉井は早速口を開こうとした。


だが。


由美の方が先だった。


「……これ以上、何なんですか?」


由美が吉井を睨む。


「私は全部話したはずです!」


「だったら早く春人を探してください!!」


叫び声に近かった。


由美は、完全に精神の限界へ近づいていた。


だが。


吉井は表情一つ変えない。


「今、聞きたいのは」


「あなたの気持ちの方です」


由美が息を呑む。


吉井は静かに続けた。


「一つ目の質問です」


「あなたは」


「夫のタケルさんを、心のどこかで見下していた」


「違いますか?」


由美の身体が、ぴくりと反応する。


「そんな……」


「そんな事ないです」


吉井は淡々としている。


「失礼ですが、調べさせて頂きました」


「年収も、育った環境も、社会的立場も」


「由美さんの方が上だ」


由美が顔を強張らせる。


「男は意外と気にするものですよ」


由美は少し強い口調になる。


「だからって」


「私は彼を責めた事なんて――」


「二つ目の質問です」


吉井が言葉を遮った。


「由美さん」


「本当は、タケルさんを信用していなかったんじゃないですか?」


由美の言葉が止まる。


「それは……」


吉井は静かに続ける。


「仕方ないでしょう」


「タケルさんは、自分の過去を一切明かそうとしない」


「しかも、それが原因で離婚寸前にまでなったとか?」


由美は俯く。


何も言い返せない。


吉井の声だけが静かに響く。


「あなたが浮気を続けた理由」


由美がゆっくり顔を上げる。


「……タケルの隠しているものが、怖かったからなんじゃないですか」


「だから、自分だけが“信じる側”になるのが嫌だった……とか?」


長い沈黙。


やがて。


由美は小さく頷いた。


「……だとしても」


涙声だった。


「タケルは、どうしてこんな事を……」


吉井は窓の方を見る。


そして、低い声で答えた。


「それは、わかりません」


「でも、タケルが隠していた扉を」


「あなたが開いてしまったという事でしょう」

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