逮捕
事件発生から二日目の夜。
山下公園のベビーカー爆発事件を受け、警察は特別対策本部を設置した。
もはや、ただの誘拐事件ではなかった。
爆発物を使用した計画的犯行。
一般市民を巻き込む可能性。
そして、乳児の生命が危険にさらされている。
投入される捜査員の数は、一気に数倍へ膨れ上がった。
そして効果は、すぐに現れた。
防犯カメラの解析により、ベビーカーを山下公園へ置いた人物が特定されたのだ。
飯塚泰明、三十五歳。
数時間後、飯塚は自宅に潜んでいるところを確保された。
取調室。
田中刑事が到着した時、飯塚は椅子に座ったまま震えていた。
大柄な男だった。
だが今は、その大きな身体を小さく丸め、顔色も悪い。
目は赤く、唇は乾ききっていた。
田中は机の上に一枚の写真を置く。
伊藤タケルの写真だった。
「知ってるな?」
飯塚は写真を見る。
そして、ゆっくり首を縦に振った。
田中の目が細くなる。
「話せ」
飯塚は震える声で言った。
「……脅されてるんだ」
「誰に」
飯塚は、写真のタケルを指差した。
「その男だよ」
田中は黙ったまま飯塚を見る。
飯塚は堰を切ったように話し始めた。
「妻の愛美を人質に取られてる」
田中の表情が変わる。
「どういうことだ?」
飯塚は両手で顔を覆った。
「一昨日だ……ベビーカーと人形が送られてきたんだ」
「中には、手紙も入っていた」
「人形をベビーカーに乗せて、指定された時間に山下公園へ置いて来いって」
飯塚は荒く息をする。
「最初は冗談だと思った」
「でも、そのすぐ後に愛美から電話があったんだ」
田中は身を乗り出す。
「愛美さんは何と言った」
飯塚の目から涙が落ちる。
「言う通りにしないと殺されるって……!」
取調室に、飯塚の泣き声が響く。
「俺は、あれが爆弾なんて知らなかったんだよ!」
飯塚は机にしがみつく。
「頼む…… 愛美を助けてくれ……!」
大きな身体を丸め、飯塚はその場で泣き崩れた。




