過去
警察署、データ管理室。
薄暗い部屋に、パソコンの光だけが並んでいた。
吉井刑事はモニターを睨みながら、キーボードを叩いている。
机の上には、伊藤タケルの資料が大量に広がっていた。
「伊藤タケル、か……」
吉井はコーヒーを口へ運ぶ。
「随分、変わった経歴してるな」
画面には、タケルの過去が並んでいた。
両親は幼少期に死亡。
親族無し。
児童養護施設への入退所記録。
転居。
転校。
一定期間、所在不明の時期まである。
「施設を出たり入ったり……」
吉井が眉を顰める。
「よくグレなかったな、これ」
さらに資料をスクロールする。
横浜の高校を卒業。
その後、勤務先。
『城崎法律事務所』
吉井が目を細める。
「ここ有名な法律事務所だよねぇ?」
「なんで高卒を?」
「しかも資格無しで?」
普通ではありえない。
吉井は資料をめくる。
契約社員。
雑務。
書類整理。
調査補助。
「……調査?」
吉井が小さく呟く。
「なんで辞めて、不動産屋になったんだよ」
その時。
机の電話が鳴る。
吉井は受話器を取った。
「はい、もしもし」
『吉井か』
田中だった。
「経歴なら送ったでしょ?」
『詳細は?』
吉井はため息を吐く。
「それがさぁ」
「法律事務所側が全然教えてくれないのよ」
『拒否されたのか?』
「いや」
吉井は首を傾げる。
「なんか変なの」
「誰も覚えてないって言うのよ」
『……は?』
「事務員も、弁護士も」
「“そんな人いましたっけ?”って反応」
吉井はモニターを見る。
「でも、在籍記録だけは残ってる」
「うーん……」
「謎だわ、こいつ」




