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友達の山田くんには秘密がある  作者: 片山絢森
おまけ

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39/43

田中くんと徒競走


 山田は割と運動が得意だ。


「よし、次!」


 ピッという合図とともに、男子の集団が駆け出していく。それを横目に、田中は少し離れた場所で順番を待った。


 一着は桐生くんだ。顔よし頭よしのハイスペック男子で、それを鼻にかけないイケメンぶりだ。あまりにも人種が違いすぎて、羨む気も起こらない。その後ろで到着したのが山田。桐生くんに隠れて目立たないが、そのタイムはかなりいい。


 本来なら一緒にもてはやされてもいいのだが、クラスメイトの関心は桐生くんに集中している。山田もまったく主張しない。三崎くんが二人に話しかけ、何やら和やかに会話していた。


(何の話をしてるんだろう……)


 ぼーっと見ていると、彼らがこちらにやってきた。


「田中くん、よかったら一緒に走らない? あと二人なんだけど」

 声をかけてきたのは三崎くんだった。横に桐生くんもいる。


「え、いや、僕はあとで……」

「おい山田ァ!! 勝負しろ、今すぐに!!」

「あ、ちょうど五人だね。よかった、一緒に走ろう」


 桐生くんが振り返ってにこっと笑う。三崎くんも嬉しそうに頷いた。


(……ええー……!?)


 断り切れずにスタートラインに並んでしまい、何の因果か山田と一緒に走る事になってしまった。


 一着は桐生くんで二着が山田、僅差で三着が三崎くん。田中は大きく遅れて四着だった。

 ちなみにビリは峯田くんだ。靴紐がほどけて転んでしまったらしい。そうでなければ田中がビリだったに違いない。


 ビリじゃなくてよかったという気持ちと、こんな速いグループに誘わないでくれよという気持ちが入り混じる。もちろん彼らに悪気はない。田中を引き立て役にしようとするような人達ではない。純粋に、そこにいたから声をかけただけの事だろう。


 こんな風に思う自分が卑屈なのだ。そんな事は分かっている。――だけど。


(みじめだ……)


 うつむいてしまった田中の背中を、ぽんと叩く手があった。


「ナイスファイト、田中くん!」

「いい走りだったよ、田中くん」


 振り向くと、三崎くんと桐生くんが立っていた。二人ともにこにこ笑っている。


「さっき走ってた時、いいフォームしてると思ったんだよね。付き合ってくれてありがとう」

「おかげで楽しかったよ。無理に誘ったみたいでごめん」


 交互に話しかけられて、田中はびっくりしてしまった。気が動転して、ぶんぶんと首を振る。


「い、いや、無理なんかじゃ……」

「そう? ならいいけど」


 桐生くんが嬉しそうな顔になる。その顔もやっぱりイケメンだ。三崎くんは人なつっこい笑みを浮かべている。

 それを見て、なんとなく胸がふわっとした。


「あれ、の、残りの二人は……?」

「山田くんは峯田くんに絡まれる前にいなくなったよ。峯田くんは相変わらずだから、そっとしておいた方がいいと思う」


 桐生くんが厳かに宣言する。

 見ると、確かに二人の姿はそこになかった。峯田くんは遠くで吠えている。山田の姿はどこにもない。


「また次も一緒に走ろう。ねえ、田中くん?」

「次こそは桐生くんに勝ちたいなぁ。田中くんもそう思うよね?」

「あ、うん、えっと、その……」


 もごもごと口ごもっているうちに、「じゃあまた」と言って彼らは離れていった。

 それを見送り、田中はそっと胸を押さえた。


 先ほどまでのみじめさは綺麗に消えて、残ったのはふわふわする気持ち。

 なんだかちょっと、うまく言えないけれど、不思議な感動に包まれている。


 ――走ってよかった。


 たとえビリでも、みっともなくても、彼らと一緒に走れてよかった。

 誘ってもらって嬉しかった。褒めてくれて嬉しかった。

 次も一緒にと言ってもらえて、田中はちょっと感動していた。


 うん、そうだな、次もまた。


 そんな事を思う自分が不思議で、ちょっとだけくすぐったい気持ちになった。



 ――彼らともっと仲良くなるのは、もう少しだけ先のお話。


お読みいただきありがとうございます。次も峯田くんが乱入しますが、結果はまあ、お察し(あっ…)。

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