田中くんと徒競走
山田は割と運動が得意だ。
「よし、次!」
ピッという合図とともに、男子の集団が駆け出していく。それを横目に、田中は少し離れた場所で順番を待った。
一着は桐生くんだ。顔よし頭よしのハイスペック男子で、それを鼻にかけないイケメンぶりだ。あまりにも人種が違いすぎて、羨む気も起こらない。その後ろで到着したのが山田。桐生くんに隠れて目立たないが、そのタイムはかなりいい。
本来なら一緒にもてはやされてもいいのだが、クラスメイトの関心は桐生くんに集中している。山田もまったく主張しない。三崎くんが二人に話しかけ、何やら和やかに会話していた。
(何の話をしてるんだろう……)
ぼーっと見ていると、彼らがこちらにやってきた。
「田中くん、よかったら一緒に走らない? あと二人なんだけど」
声をかけてきたのは三崎くんだった。横に桐生くんもいる。
「え、いや、僕はあとで……」
「おい山田ァ!! 勝負しろ、今すぐに!!」
「あ、ちょうど五人だね。よかった、一緒に走ろう」
桐生くんが振り返ってにこっと笑う。三崎くんも嬉しそうに頷いた。
(……ええー……!?)
断り切れずにスタートラインに並んでしまい、何の因果か山田と一緒に走る事になってしまった。
一着は桐生くんで二着が山田、僅差で三着が三崎くん。田中は大きく遅れて四着だった。
ちなみにビリは峯田くんだ。靴紐がほどけて転んでしまったらしい。そうでなければ田中がビリだったに違いない。
ビリじゃなくてよかったという気持ちと、こんな速いグループに誘わないでくれよという気持ちが入り混じる。もちろん彼らに悪気はない。田中を引き立て役にしようとするような人達ではない。純粋に、そこにいたから声をかけただけの事だろう。
こんな風に思う自分が卑屈なのだ。そんな事は分かっている。――だけど。
(みじめだ……)
うつむいてしまった田中の背中を、ぽんと叩く手があった。
「ナイスファイト、田中くん!」
「いい走りだったよ、田中くん」
振り向くと、三崎くんと桐生くんが立っていた。二人ともにこにこ笑っている。
「さっき走ってた時、いいフォームしてると思ったんだよね。付き合ってくれてありがとう」
「おかげで楽しかったよ。無理に誘ったみたいでごめん」
交互に話しかけられて、田中はびっくりしてしまった。気が動転して、ぶんぶんと首を振る。
「い、いや、無理なんかじゃ……」
「そう? ならいいけど」
桐生くんが嬉しそうな顔になる。その顔もやっぱりイケメンだ。三崎くんは人なつっこい笑みを浮かべている。
それを見て、なんとなく胸がふわっとした。
「あれ、の、残りの二人は……?」
「山田くんは峯田くんに絡まれる前にいなくなったよ。峯田くんは相変わらずだから、そっとしておいた方がいいと思う」
桐生くんが厳かに宣言する。
見ると、確かに二人の姿はそこになかった。峯田くんは遠くで吠えている。山田の姿はどこにもない。
「また次も一緒に走ろう。ねえ、田中くん?」
「次こそは桐生くんに勝ちたいなぁ。田中くんもそう思うよね?」
「あ、うん、えっと、その……」
もごもごと口ごもっているうちに、「じゃあまた」と言って彼らは離れていった。
それを見送り、田中はそっと胸を押さえた。
先ほどまでのみじめさは綺麗に消えて、残ったのはふわふわする気持ち。
なんだかちょっと、うまく言えないけれど、不思議な感動に包まれている。
――走ってよかった。
たとえビリでも、みっともなくても、彼らと一緒に走れてよかった。
誘ってもらって嬉しかった。褒めてくれて嬉しかった。
次も一緒にと言ってもらえて、田中はちょっと感動していた。
うん、そうだな、次もまた。
そんな事を思う自分が不思議で、ちょっとだけくすぐったい気持ちになった。
――彼らともっと仲良くなるのは、もう少しだけ先のお話。
了
お読みいただきありがとうございます。次も峯田くんが乱入しますが、結果はまあ、お察し(あっ…)。




