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友達の山田くんには秘密がある  作者: 片山絢森
クラスメイトも色々ある

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エピローグの裏側で(後編)


    ***



「どうやったの、あれ?」

 ぼそぼそと言う声に、桐生は首をかしげた。


「それが、最後のは僕がやったんじゃないんだ。誰かが代わりに花火を上げてくれたみたいだよ」

「はっ? なんで?」

「さあ。親切な人がいたんじゃないかな」


 そう答えると、間宮は唖然とした顔をしていた。


 実際、桐生にも何が起こったか分からないのだ。

 桐生は二度この学校で花火を上げた。そして扉を開ける事に失敗した。

 がっかり半分、やっぱりと言った気持ち半分だったが、間宮はひどくおろおろして、「ほんとにやるなんて…」とうわ言のように呟いていた。


 本当も何も、やると宣言したではないか。

 それに――間宮には言わないが、多分これは扉が開く事が目的じゃなく、花火を上げる事自体に意味がある。そう思ったからだ。


 助けたいなんて、大それた事を思っていたわけじゃない。

 だけど、手を差し伸べる事ができたら。

 何もかもあきらめてしまったような表情が、また光を映してくれたら。

 そうすれば、昔の自分も救われるような気がした。


 多分桐生は間宮の中に、昔の自分を重ねていた。

 ずっと昔、不思議な世界に憧れていた子供の自分が、膝を抱えて座っている。

 あのころの夢はとっくに手放してしまった。――だけど、まだ。


 うつむいている顔を上向けて、青い空を見せたい。

 冷たく縮こまった手を取って、色づく世界を見せてあげたい。

 そうしたらきっと、何かが変わる気がするのだ。


(だから)


 珍しく桐生は本気で願った。

 この願いが叶うよう真剣に祈った。

 どうか神様、願いを聞き届けてくれますように。


 それができないなら、せめて努力を。

 彼のために何かしようとする存在がいるのだと、その目に映してやれますように。


 ヒーローに憧れて、空が本気で飛べると信じて、魔法の練習に明け暮れた。そんな幼いころの自分が、今も胸の中にいる。

 できるなら、どうか、神様。


 ――もしも奇跡が起きるなら。


 年甲斐もなく、そんな事を心から願ってしまったのだ。


(まさかほんとに異世界の扉が開くとは思わなかったけど)


 あれは見間違いかもしれない。実際、隣にいた三崎くん以外は誰も気づいていなかった。


 だけど、それでもいいのだ。

 桐生は確かに扉を見つけた。

 そして間宮もそれを見た。

 それだけで十分だ。


「……信じられない。なんでそこまでしてくれるの?」

 間宮が困惑した声で言う。


「言っただろう、友達だから」

「友達でもしないよ、こんなこと! 校則違反じゃないか」


 実際は校則違反どころの話ではないのだが、校内で煙草を吸うのとどっちが悪いかと聞かれると少し困る。桐生は基本的に校則を守る。多分間宮もそうだろう。

 間宮は目に涙をためたまま、「信じられない」と繰り返す。


「ぼ……ぼく、無理だろうと思ってたのに」

「そうなの?」

「できるはずないって……口だけだって、そう思ったのに」

「え、そうなの?」


「ほんとに学校で花火を上げるなんて……しかも二回も。先生に見つかったら停学だよ。信じられない」

「うーん……そう言われてもなぁ。青空に花を咲かせる方法が、他に思いつかなかったんだ」


 桐生は困ったように頬をかく。

 花の形に組んだ風船を飛ばすとか、花を描いた凧を上げるとか、他にも色々考えたのだ。けれど、どれもしっくりこなかった。これは花火だなと直感していた。

 結果的にそれは大当たりだったのだから、もう少し喜んでくれてもいいと思う。


「でも、賭けは僕の勝ちなんだから、約束は守ってもらうからね」

「……うん、まあ」

「学校。辞めないでよ、間宮くん」


 桐生が笑うと、間宮はぐっと唇を噛んだ。元々うるんでいた目に涙が盛り上がり、しぱしぱと瞬きで覆い隠す。一粒二粒、床に落ちた水分は見ないふりをした。


「……辞めないよ」

 間宮は(はな)をすすり上げた。


「辞めたくないよ、本当は」


 知ってるよ――とは言わなかった。

 もし彼が本気で辞めたいと思っているのなら、こんな真似は出来なかった。けれど、これは自分だけが知っていればいい事だ。


「辞めたくないけど……でも」


 無理かもと続きそうになった言葉を遮り、冷えた手を両手で包み込む。はっと息を呑む気配がした。


「大丈夫。ひとりじゃないよ」

「…………っ」

「一緒に考えよう。いざとなったら、異世界に行けばいい。何しろ本当に存在するのが分かったんだから」

「それ、本気で言ってる?」

「もちろん」


 桐生は自信たっぷりに頷いた。

 証言者が必要なら、三崎くんに力を貸してもらおう。何しろ彼も目撃したのだ。きっと快く引き受けてくれるだろう。桐生は三崎くんの事が好きだ。もっと仲良くなれたらとても嬉しい。


 それから――もうひとり。


「いつか、間宮くんに紹介したい人がいるんだ」

「誰?」

「前に話したことがなかったかな。ちょっと不思議な感じのクラスメイト。彼なら異世界を信じてくれそうな気がする」


「そういえば、そんな話を聞いたっけ」

「友達もすごくいい人なんだ。異世界の扉はあるって言ってくれた。自慢のクラスメイトなんだよ」

「……うん、会ってみたいな」


 間宮は照れくさそうに頷いた。

 クラスは別だけれど、会う機会はいくらでもある。

 いつか、間宮に彼らを紹介したい。

 そして彼らにも、桐生の自慢の友達を紹介したい。


 そんな日がいつか来るかもしれないし、来ないかもしれない。異世界の扉にはまた出会うかもしれないし、二度と出会わないかもしれない。未来は誰にも分からない。――だけど。



 それでも今日、確かに異世界の扉は開いた。



「ところで間宮くん、あの花火ほんとに何だったと思う?」

「えぇぇ……分かんないよ。桐生くんがやったんだと思ってたもん」

「本当に七不思議かな」

「七不思議じゃない?」


 他愛ない会話を交わしながら、二人はどちらからともなく窓の外を見た。

 金色の光が差し込み、室内を柔らかく彩っている。

 それは少しだけ、あの花火の色とも似ている気がした。


お読みいただきありがとうございます。だって君は友達だから。


というわけで、クラスメイト編をお届けしました。いいね・ブクマ・評価など、どうもありがとうございます。とても励みになりました。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。あらすじにも書いた通り、「陰キャも陽キャもみんな幸せ(一部除く)」なので、この先はきっとみんな幸せ。


これにて完結です。

ここまでお付き合いいただいた方、どうもありがとうございました!

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