↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友達の山田くんには秘密がある  作者: 片山絢森
クラスメイトも色々ある

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/43

スカーレットの憂鬱-3


    ***



 きっかけは些細な事だった。

 みどりの斜め後ろの席には、小太りで無口な男子がいる。名前は()(なか)くん。ややオタクっぽい雰囲気で、クラスに親しい友人はいない。

 たまに教室の後ろを見つめ、そこにいる誰かを観察しているようだけれど、特に何をするでもない。無害な同級生だと思う。


 みどりは彼に関心がないが、奏はちょっと気にしていた。

 ああなんかこの人、ちょっとあたしに似てるかもと。


 奏は小太りではないし、オタクを前面に出しているわけでもない。でもちょっと、なんとなくちょっとだけ、彼にシンパシーを感じているのだ。

 何気なく目をやると、ちょうど田中くんがこちらを見たところだった。

 奏と目が合いかけて、不思議そうな顔になる。


 その直後、なぜか彼はうろたえたように息を呑み、慌てて机に顔を伏せた。

 なんだろうと思ったら、「もー奏ちゃん、どうしたの?」という声がした。


「さっきから呼んでるのに。気づいてよぅ」

「……みどり」


 立っていたのはみどりだった。奏が目をやると、みどりはきょとんと首をかしげた。


「うん? どうかした?」

「…………」


 それには答えず、奏は改めて後ろを見た。

 田中くんはもぞもぞとうつむいていた。耳の先がちょっぴり赤い。もちろん、奏と目が合ったからではない。


 席を外していたみどりが戻ってきて、その目が自分の方を向いたから。

 もっと言えば、みどりと目が合いそうになって、彼は視線を外したのだ。可愛い女の子に見られるのが恥ずかしかったから。


 奏じゃなくて、みどりだから。


「………………」

「あれ、奏ちゃん? なんか機嫌悪い?」

「ううん、ちっとも」


 男はみんなそういうものだ。

 たとえクラスに馴染めていない田中くんであっても、好きな女の子を選ぶ権利はある。

 けれど、胸のどこかに刺さった棘は、いつまでもちくちくと疼いていた。






 改めて観察すると、みどりは奏と正反対の女の子だった。


「あーどうしよう、消しゴム忘れた」

 静かに本を読む奏の横で、みどりは今日も騒いでいる。その制服はやっぱり変だ。よれた襟元を直してやると、みどりは嬉しそうに礼を言った。


「あんた家で勉強しないのに、なんで消しゴム忘れるの?」

「消しゴムの耐久力検証してる動画があって、試してたんだよぅ。そんでうっかり置いてきちゃった」

「相変わらず抜けてるわね」


 奏はちょうど消しゴムを買ったばかりで、ちびた消しゴムも持っている。


「返さなくていいから。これ使いな」

「うう、ありがとう、奏ちゃん……」


 うるうる目で感謝するみどりはやっぱり可愛い。顔立ちではなく、この子の持つ雰囲気だ。


 その後もみどりは物を落とし、教科書を忘れ、受け取ったばかりのプリントをなくした。落としたものは拾ったし、教科書は隣のクラスの友人に借りたし、プリントは鞄の隅から見つかった。

 みんな慣れているのか、仕方ないなあと笑っている。


「みなさんありがとう、助かったよ……」


 申し訳なさそうにしながらも、みどりはそこまで気にしていない。回数が多すぎるせいもあるけれど、可愛いドジのせいもある。みんながみどりに向ける視線はやさしい。

 みどりは愛されキャラなので、世話をかけても許されるのだ。


 自分だったらどうだろう、と奏は考えた。


 もしも奏がなくしものをしたら――多分、誰にも言わないだろう。


 ひとりで地道に探し続け、その様子を見ている人に聞かれても「なんでもない」と言うだろう。さらに聞かれて、そこで初めて打ち明ける。みんなの前で大げさに騒ぐなんて論外だ。みっともないし、恥ずかしい。


 自意識過剰なのは理解している。けれど、地味で可愛げのない自分が他人に迷惑をかける事は許されない。そういう風に思うのだ。


 他人に迷惑をかけず、自分の事は自分でやる。

 自分の面倒を見られてこそ、外の世界で生きていける。


 みどりみたいな女の子は、今は誰かが助けてくれても、いつか絶対にツケが回る。そうなって初めて自分の使えなさを知るのだろう。


 奏はなくしものも、忘れ物も、落とし物もしない。

 たとえあったとしても、極力そうならないように生きている。

 奏はそういう自分が嫌いじゃない。

 真面目で、堅実で、しっかりしている。悪くない自己評価だと思う。


 でも、本当は知っている。


 ひとりで探す可愛げのない女の子よりも、みんなに頼る、素直で可愛い女の子の方が、ずっとずっと魅力的なのだという事を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。