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友達の山田くんには秘密がある  作者: 片山絢森
クラスメイトも色々ある

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みどりはちょっと抜けている‐9


 それはない。


 桐生くんは優秀だけれど、その意見には賛成しかねる。

 だってそうなると、犯人が桐生くんという事になってしまう。


 それは絶対にないだろう。リア充のイケメンはそんな事しない。奏ちゃんが聞いたら、偏見に凝り固まってんじゃないわよバカなの、耳の穴にショウガ詰めるよと言われそうだが、それでも彼は犯人じゃない。


 それに――もしそうなら、奏ちゃんが桐生くんを好きという事になってしまう。

 思った瞬間ぎくりとして、みどりは慌てて首を振った。


 それはない。絶対ない。


 いつも落ち着いているけれど、洒落っ気のない奏ちゃんの姿を思い出す。

 彼女は桐生くんを前にしても、髪型を気にしたりしないし、歯に青のりがついていないか気にしないし、笑顔を練習したりしない。奏ちゃんが桐生くんを好きなはずはない。……と、思う。


 ――それに。


 奏ちゃんは友達だ。たまにきつい事も言うけれど、みどりの大事な親友だ。

 彼女がみどりじゃなくて、犯人をかばうなんてありえない。


 だとすれば、犯人に脅されているのだろうか。桐生くんも弱みを握られているかもと言っていた。そっちの方がありえそうだ。

 でも、なんだかしっくりこない。


 その間も、みどりと奏ちゃんとの仲はぎくしゃくして、友達にも「ケンカでもしたの?」と聞かれてしまった。ケンカではないけれど、奏ちゃんとは話せていない。


 物がなくなる事はめっきり減った。あってもみどりの凡ミスか、うっかりによる勘違いだ。

 そういえば、物はなくなっても、捨てられたり壊されたりした事は一度もなかったなとみどりは思った。いつもちゃんと見つかっていたし、ハンカチ以外は汚された事もない。妖精さんのいたずらと言われれば信じるくらい、ささやかで小さな嫌がらせだ。


 ねえ、あなたは誰なのよ?

 胸の中で問いかけても、返事はない。


 そして離れてみると、奏ちゃんがたまに、ごくたまにだけれど――桐生くんの方を見ている事に気づいてしまった。


 え、そうなの?

 ねえ、そうなの?


 直接問い正したいけれど、勇気が出ない。


 これが物語ならどうだろう。

 犯人はヒロインの好きな人で、親友はそれを知ってかばっていて、ひそかにヒロインを裏切っている。実は、親友も彼の事が好きだったから。

 少女マンガなら鉄板の展開だ。鉄板が分厚すぎて砕けないほどの。


 もしそうだったら――あたしは。


 そうやって悩み、迷って、数日が過ぎた。


 ――事件が解決したのはひょんな事からだった。


 みどりのパスケースがなくなり、いつものように探していると、なぜか峯田くんがやってきた。


 そして彼は思いがけない事を高々と叫んだ。

「俺は、山田が盗ったのを見た!」


 え。


 ざわりとどよめくクラスメイトと同じく、みどりも目を丸くした。

 犯人に驚いたからではない。もっと別の理由でだ。


 ――山田って誰?


 まったく心当たりのない名前に、驚くよりも困惑する。

 峯田くんは自信満々だったが、クラス中の反応はみどりと同じだ。戸惑い、困惑し、もっと言えば「いや違うだろ」という感じだ。


 そもそも、なぜ山田くんとやらがみどりのパスケースを狙うのか。彼とは何の関係もない。手癖の悪い人間はいるが、そういうわけでもないと思う。

 周囲もそう思っているのか、山田くんへの疑惑は薄い。


 ともあれ、妙な注目を集めてしまったのは間違いない。どうしようとみどりは思った。

 一連の出来事が公に出れば、みどりへの嫌がらせも明らかになる。それはちょっと嫌だった。よく分からないけれど、なんだか嫌だ。


 無意識に、奏ちゃんの姿を探した。

 だが、ここにはいない。今は席を外している。

 桐生くんの姿もない。みどりを助けてくれそうな人はいない。


 峯田くんは山田くんに絡み続ける。もし暴力に発展したら、みどりにはどうにもできない。なんだかどんどん大ごとになってしまい、みどりはちょっと泣きたくなった。


 パスケースをなくしたせいで、もっととんでもない騒ぎになったら。

 そのせいで誰かが怪我をしたら。

 それ以上に、無関係な人が犯人にされたら。

 そんなの嫌だ。困る。どうしよう。


(もうやだ……)


 心細さに泣きそうになった時だった。



「ちょおおぉぉぉぉっと待ったあああぁぁぁぁぁあっ!?」



 とんでもない絶叫が教室中に響き渡った。


(え……)


 振り向くと、オタク男子こと田中くんが、息を荒くして立っていた。

 その顔は真っ赤なような、青ざめているような、とてつもなく変な顔色だ。彼の迫力に圧されて、峯田くんがのけぞった。


 何、とみどりは思った。

 この状況は何だろう。


「そ、その言い分には若干の疑問が残る!」


 やはり裏返った声で叫んだ田中くんが、峯田くんをビシッと指した。

 よく分からないまま、クラス中の注目が集まっていく。なんだなんだと騒ぎ始めるクラスメイトをよそに、みどりはぽかんとした。何が起こっているのか分からなかったが、ひとつだけ分かった事があった。


 空気が、変わった。


 田中くんはその後、まくし立てるような弁舌で峯田くんの矛盾をつき、疑問を提示し、あっという間に山田くんの疑いを晴らした。それはもう、ほれぼれするほど見事な演説だった。なんか一回、口調がオネエになった気もするけれど――それでも見事なスピーチだった。あれを論破というのだろう。動画に撮っておけばよかったと思ったほどだった。


 峯田くんはそれでも往生際悪くあがいていたが、尻ポケットに入っていたものが決め手になった。

 すなわち――みどりがなくしたはずのパスケース。


(なんだ……)


 彼の言葉から、山田くんに罪をなすりつけようとした事は明らかだった。

 動機は単なる嫌がらせ。


 今までのみどりの件も、おそらく彼がやったのだろう。ゆがんだ恋愛をこじらせたと言っていたのは、確か峯田くんの友人だったか。ごめんなー宮園と謝られ、みどりは快く許してあげた。


 ゆがんだ恋心はヤンデレだ。みどりの好きな少女マンガにも出てくる。ヤンデレならばしょうがない。


 ふと気づくと、奏ちゃんが戻ってきていた。

 何があったのか聞いたのか、少し驚いた顔をしている。

 みどりと目が合い、みどりはへらっと笑って手を振った。

 奏ちゃんは――なぜか少しだけ、泣きそうな顔をした。

お読みいただきありがとうございます。峯田がヤンデレになってしまった。

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