みどりはちょっと抜けている‐7
「……でも結局何も解決してないんだよねぇ……」
おやつのパンを頬張りながら、みどりが机に頭をつける。
「行儀悪い。別にいいじゃない、田中くんは犯人じゃなかったんでしょ?」
「そうだけどさぁ……」
もぐ、とパンを噛みしめる。
確かに終わったといえば終わったのだが、釈然としない。
午前中の騒ぎが思ったよりも大きかったせいか、あれから妙な出来事は起こっていない。それは喜ばしいのだけれど、犯人も見つかってない。
違う事に気を取られすぎていたせいか、英文読解の授業でしくじってしまい、コガセンにネチネチいびられた。やっぱりあの男は陰険だ。くそぅ、高齢独身オッサンメガネめ。
何事も起こらないので、桐生くんと話す機会もない。理由をつけて話しかけてみても、今ひとつ手ごたえを感じない。彼とみどりに共通する話題はない。せいぜいが、「今日の授業なんだろうね」「そうだね」とか、「宿題やった?」「やったよ」くらいだ。
読書の話題で盛り上がれたらいいのだが、みどりはマンガ以外の本を極力読みたくはない。
恋も謎解きもうまくいかない。みどりの日常は低空飛行だ。
「なんか明日もありそうよね、色々と」
「鬼!」
叫んだらパンくずがこぼれてしまい、ひゃぁっと叫んで起き上がる。ティッシュを出そうとしたが、ポケットには入っていなかった。手で集めようとするみどりを見かねたのか、奏ちゃんがポケットティッシュを恵んでくれた。
「うう、ありがとう、奏ちゃん……」
「しょうがないわね、本当に」
差し出されたティッシュは新品で、爽やかな柑橘類の匂いがした。
***
――あなたのその顔が、昔から気に入らなかったのよ。
――いつも周りから愛されて、何も知らない顔をして。
――わたくしがどう思っているかなんて、あなたは知らなかったでしょう。その無神経なところが、もう我慢ならないのよ、エリザベス!
「はー……」
キリのいいところまで読み終えて、みどりは携帯の電源を落とした。
やっぱりこのマンガ面白い。二十年以上も前の作品だけれど、オススメにちょくちょく載っていたから買ってみた。話はありきたりだけれど、テンポが良くて痛快だ。今はライバルキャラのスカーレットが、主人公のエリザベスを追い詰めるクライマックスだった。
彼女はエリザベスが憎いあまり、あの手この手を使って彼女を陥れ、窮地に立たせようとする。けれど、エリザベスは持ち前の明るさとやさしさで、すべてを見事に切り抜けるのだ。
そういえば奏ちゃんも前にこのマンガ読んでたな、とみどりは思った。貸してとねだったのだけれど、「あんた電子派でしょ、電子で買いな」とにべもなく断られた。こんな古いマンガないよぅと言ったのだけれど、その後すぐに追加された。なんでも、出版社の権利関係によるものらしい。よく分からない。
その時は興味がなかったものの、一応チェックは入れておいた。購入したのは気まぐれだが、読んでよかったと思う。
そのうち奏ちゃんと語り合いたいと思うのだけれど、いまいちタイミングがつかめない。この話題になると、なぜかあんまり盛り上がらない上、最近では別の事に気を取られる。
理由のひとつが、ここ最近みどりの身に起こった怪現象によるものである事は間違いない。
(そういえば)
奏ちゃんもよく本を読んでいる。マンガも読むけれど、ラノベとか、ハードカバーの小説とか。
オタクって言った時怒ってたのってそのせいかなと思い、みどりは少し反省した。
田中くんはともかく、奏ちゃんは親友だ。彼女を怒らせたくはない。
だからみどりは翌日の学校で、「ごめんね、奏ちゃん」と謝罪した。
「は、何が?」
「奏ちゃんはオタクじゃないよ。イケてる女子だよぅ」
「……いやよく意味が分かんないけど、あんたあたしのことバカにしてんの?」
「そうじゃなくて、奏ちゃんはキモくないし、オタクでもないし、田中くんとは違うから」
その瞬間――奏ちゃんは一瞬、ものすごく鋭い目でみどりを見た。
「……そうね。あたしはイケてる女子だもんね」
「そ……そうそう、そうだよぅっ」
まなざしの強さにひるんだが、奏ちゃんが笑ったのを見て安心する。
「田中くんとも、山田くんとも違う。……それから多分、あんたや桐生くんとも違うんでしょうね」
奏ちゃんは何かを噛みしめるように口にした。
「え、どういう意味?」
「いいのよ、みどり。あんたには関係ない」
そして彼女は爆弾発言を投下した。
「あたしね、あんたに嫌がらせした犯人を知ってるの」
「……え?」
「あんたもよく知ってる人よ。でも、あんたには言わない。絶対にね」
それだけ言うと、奏ちゃんはさっさと歩き出した。
後には呆然とするみどりだけが残された。




