表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友達の山田くんには秘密がある  作者: 片山絢森
クラスメイトも色々ある

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/43

みどりはちょっと抜けている‐6


(どうしよう……)


 みどりはうろたえていた。

 こんなにどきどきするのは高校入試以来だと思った。あの時だって、そこそこ安全圏にいたから、今回みたいな緊張はない。


 嫌な感じだった。

 ものすごく怖いと思った。


 このクラスに――そうとは限らないけれど、多分このクラスだ――みどりを嫌っている人がいる。そして、嫌がらせを仕掛けてきた。

 奏ちゃんに相談しようとして、はたと黙る。この間のように冗談交じりならいいけれど、こんな相談をするのは嫌だ。なんだか恥ずかしいし、みじめな気がする。奏ちゃんには知られたくない。


 犯人は誰だろう。

 脳裏にポンっと浮かんだのは、オタクでメガネ、ちょっと小太りなクラスメイト。


(……まさか、田中くんが?)


 彼はあれ以来、何度か妙な動きをしていた。ものすごく挙動不審だった。

 けれど、みどりに何かしている証拠はないし、常に別のところを見ていた気がする。でも、それも作戦かもしれない。なんだかよく分からない。


 決め手がないまま二時間目が過ぎ、中休みになった。

 そして次の時間になり、三度目が起こってしまった。


「……え?」


 体育の授業の後、着替えを終えて教室に戻ると、替えの靴下が消えていた。

 体育が始まる前、確かにここに入れたのに。

 面倒なので更衣室ではなく、教室で替える事にした。椅子に座って履き替えた方が楽だったから、つい不精をしてしまった。ジャージを引っ張り出して確かめたが、やはりない。忽然と消えてしまっている。


「もっとちゃんと確認した?」

「ジャージのポケットは? 鞄の隅も見て」


 友達が口々に助け船を出してくれる。ありがたかったけれど、みどりは答えられなかった。


 ちゃんと入れたのに。体育袋の上に、きちんと入れたはずなのに。

 体育が始まる前は確かにあった。あったはず、なのに。


(……おまけに)

 みどりはぞっと身震いした。


 体育袋には着替えも入れてあった。

 みどりは汗っかきなので、シトラス系の制汗剤とともに、下着の替えも入れておく。その誰かは、みどりのブラとパンツをばっちり見たという事だ。


 もしかしたら――触ったかも。

 そう思うと気持ち悪くて、今すぐ下着ごと脱ぎ捨てたくなる。

 変質者に触られたかもしれない下着。いや、触るだけじゃないかもしれない。その先の想像は気持ち悪すぎてできない。怖い、嫌だ、気持ち悪い。


「……こ……ッ」

 その時、背後に人の気配がした。


「こっ、こ……!」


 振り向いたみどりは目を見張る。

 立っていたのは田中くんだった。

 なぜだか息をハアハアさせ、血走った目でみどりを見ている。だらだらと流れる汗をそのままに、彼は一歩近づいた。


「こっ、こここ、これっ……!」

「え?」


 自分より体格のいい男子に近寄られ、みどりはビクッとした。腰が引けたのにも構わず、田中くんはもう一歩近づいてくる。清潔とは言い難い体から、むわっと汗の臭いがした。


「これ、こっ、これ、く、くつ、靴下じゃ……っ」


 硬直したみどりに構わず、田中くんは体育袋に手を伸ばした。止める間もなく、中から白いものを引っ張り出す。その手に握られたものに、みどりはえ、と目を見張った。


(あれは……)


 みどりの、さっき脱いだばかりの。

 汗が染み込んでいるはずの。

 体温さえ残っているくらい、脱ぎたてほやほやの――。


「キャ―――――ッ!!」


 腹の底からの悲鳴に、田中くんはビクッとした。涙目のままひったくり、その勢いでにらみつける。


「あたしの下着よ! 汗かいたから着替えたの! なんなのバカ、サイッテー!」


 ストーカー疑惑の上痴漢なんて、どう考えても許されない。これはセクハラだ。現行犯だ。脱いだばかりの女子の下着を手づかみして、ただで済むとは思わないでほしい。

 田中くんは驚いたような顔をしていた。呆然と、という方が近いかもしれない。凍りついたように立ちすくむ彼の事を、みんなが冷たく見据えている。


(もうやだ)


 じわりと目に涙がにじんだ。

 恥ずかしい。怖い。いたたまれない。

 その目にたまった涙がこぼれそうになった時、ふいにやさしい声がした。


「違うよ」


 小さいけれど、はっきりした声だった。


「田中くん、靴下探してくれてたんだよ」


 口を開いたのは(ふじ)(さき)さんだった。みどりとはそれほど親しくないが、話した事は何度かある。地味系だけれど、割と可愛い顔立ちをしている。彼女は隣にいる(よし)(かわ)さんに、「ね、(なお)ちゃん」と言った。


 彼女の親友は吉川さんだ。クラスでも目立つ女子のひとり。美人で、気が強くて、スポーツ万能。彼女の言葉には力がある。

 その吉川さんはちょっとだけめんどくさそうな顔をした後、「あーうん、あたしも見てたわー」と言った。


 その言葉で、空気が変わったのが分かる。


 彼女は続けて、田中くんが犯人だとすれば不自然な事、そんな度胸はない事など、的確かつ簡潔に述べた。めんどくさそうな割に、藤崎さんには甘いようだ。

 順序立てて説明されると、みどりも彼が犯人じゃない事は理解できた。


 まだ涙目だったものの、みどりは彼に「…ごめんね」と謝った。下着を手づかみされたのは事実だが、それは不問にしておこう。犯人扱いをしてしまったのだから、それくらいは我慢しないと。

 田中くんはみどりを許してくれた。泣きそうな顔をしていたので、さすがにちょっと反省する。


(ホントに呪われてるのかもしれない……)


 でも峯田くんとお祓いに行くのは嫌なので、それだけは遠慮したいと思う。

 彼は「不幸男」と称されるくらいの不幸の権化であり、しょっちゅうお祓いを勧められている、とても残念なイケメンなのだ。


 靴下は更衣室脇で見つかった。見つけてくれたのは特徴のない男子生徒だった。

 みどりは彼にお礼を言い、彼もうん、と頷いた。

 以前にも見た事があるはずなのに、なぜか印象に残らない。彼も主張はしなかった。

 こうして、騒ぎはいったん収まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ