みどりはちょっと抜けている‐4
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田中某(下の名前は知らない)が第一容疑者になってから、なくしものは減った気がする。
みどりが気をつけているせいもあるが、もしかすると田中くんの動きを封じているのかもしれない。だとすれば、やっぱり彼が犯人だったのか。でもその割に、視線が合った事は一度もない。
奏ちゃんは一貫して「あんたの勘違い」と言う。そう言われれば、そんな気もする。
(うー、よく分かんない……)
ぺとり、と机に頬をつける。
何気なく隣を見ると、桐生くんが本を読んでいた。
整った横顔が素敵だ。みどりが推しているアイドルグループの一員にも似ている。
桐生くんに相談してみようかな、と思った。
話す口実に使えるし、なんなら心配してもらえる。桐生くんはやさしいから、きっと相談に乗ってくれるだろう。それをきっかけに、もっと仲良くなったりして――なんて思っていると、
「宮園さん?」と名前を呼ばれた。
「どうかした、大丈夫?」
「あ、うん、なんでもない」
えへへ、と笑って髪を直す。桐生くんには可愛いと思われたい。
そう、と頷いて、彼はまた本を読み始めた。伏せた目の形が美しい。
「桐生くん、読書好きなんだね」
「ファンタジーだけどね。父親からは物語を読む暇があったら勉強しろって言われてる」
「物語ダメなの?」
むしろ本を読めと両親から口を酸っぱくして言われているみどりにとって、彼の言葉は異次元だった。
「作りものだからね。うちの父親はノンフィクションしか読まないらしい。部屋の本棚も外国語の本でいっぱいだよ」
「へー……」
だとすればみどりのマンガなど論外だろう。すごいなあと同時に、うわー可哀想、とも思ってしまう。
「桐生くん、大変だねぇ」
「そうでもないよ。もう慣れた」
穏やかに微笑む顔が格好いい。そういえば、彼の実家は総合病院だ。お金持ちでイケメンで頭もよくて、おまけに性格もいいなんて。天は二物も三物も与えている。
斜め後ろでストーカー疑惑兼、オタク男子の田中くんも本を読んでいたが、彼が読んでいるのは美少女系だろう。一緒にしたら桐生くんが穢れる。
やっぱり相談してみようかな、とみどりは思った。
それを口実に、もう少し仲良くなれるかも。
田中くんには申し訳ないけれど、誤解されるような行動を取る方だって悪いのだ。ちょっとだけダシにさせてもらいたい。
「あの、桐生くん――」
うん? と彼がこちらを見た時――。
「オラ山田ァ!! こっち見ろよ!!」
という、非常にうるさい声がした。
「ああまたやってる……。峯田くん? 山田くんに絡むのやめなよ」
そう言うと、桐生くんが席を立ってしまう。向かった先は教室の後ろだ。そこには峯田くんと友人二人に囲まれた、見覚えのない生徒がいた。
「……んん?」
あんな男子、クラスにいたっけ?
よく分からないまま、みどりはまあいいかと目を戻した。
顔もスタイルも平凡で、特に印象に残らない。なぜかオタク男子こと田中くんがぎりぎりと唇を噛みしめていたが、うわ何してんのこの人、と若干引いた。
――せっかく桐生くんと話すチャンスだったのに。
情緒不安定な男子と見知らぬ平凡な男子生徒に邪魔されて、台無しになってしまった。
愚痴交じりに奏ちゃんに報告したら、彼女は呆れた顔をした。
それから「あんたそういうところよホント」と、よく分からない助言をくれた。
***
それからもたまに物はなくしたが、しばらくは平穏な日が続いた。
田中くんの動きは相変わらず不審だったが、気をつけていれば実害はない。そのせいか、みどりはすっかり油断していた。
今ものんきな顔をして、奏ちゃんに耳打ちする。
「そういえば、桐生くんと仲良くなれそうなんだよね」
「え、そうなの?」
「うん。ちょっと頑張ってみようかな。桐生くん、カッコいいよねぇ」
えへへっと笑うと、奏ちゃんもそうねと頷いた。
事件について話したのはつい最近だ。
自分の身に起こったあれこれを相談すると、桐生くんは真剣に聞いてくれた。同じクラスの人が犯人かも、というところでは首をかしげたが、それでもちゃんと聞いてくれた。
また相談してもいいかと聞くと、彼は快く頷いた。以来、なんだかんだと理由をつけて、よく話すようになっている。
棚からボタモチだったかなぁと呟くと、「瓢箪から駒じゃない?」と奏ちゃんが突っ込んだ。
それから「よかったね」と笑ってくれた。




