みどりはちょっと抜けている‐2
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「『おや? おかしいですねえ。ボクの目には、君の机にあるはずのノートが見えないんですがねぇ。ボクの目がおかしくなったのかな? それとも違う理由なのかなぁ』……って! あの陰険高齢独身メガネめ!」
お弁当を食べながら、みどりはぼすんと鞄を叩いた。お弁当用の保冷バッグで、目印にマスコットをつけてある。
向かいでお弁当を食べながら、奏ちゃんは呆れた顔をした。
「いや高齢って、あの人まだ二十代でしょ? そこまでオッサンじゃないじゃん」
「見た目と中身を言ってるんだよ、奏ちゃん! あと二十五歳以上はもうオッサンだよ、間違いなく!」
三十代以上の男性にタコ殴りにされてもおかしくないくらいの暴言だが、みどりは持論を曲げる気はない。みどりの好きな超人気アイドルグループのメンバーならともかく、少しくたびれた陰険な二十六才独身教師はオッサンだ。
「はいはい、そうでございますこと」
奏ちゃんは半分聞き流す。むうっとみどりはむくれてしまった。
「……奏ちゃんが冷たい」
「あたしが冷たいんじゃなくて、あんたの頭が抜けてるの。今日だってスカートのファスナー閉めるの忘れて下着見えそうになってたでしょ。なんでそんなにアホなのあんた。うっかり者にもほどがある」
「遺伝によるおっちょこちょいなんだよぅ……」
言い返してはみたものの、返す言葉がないとはこの事だ。今日だって宿題の分からないところは教えてもらったし、ノートも一枚分けてもらった。制服も整えてもらい、乱れた髪を直してもらって、箸を忘れたみどりのために、予備のお箸までくれたのだ。
奏ちゃんには頭が上がらない。
彼女のおかげでみどりは無事に生きていける。平穏な学校生活が送れるのは、奏ちゃんがいてくれるからだ。
感謝の言葉を捧げると、奏ちゃんは一瞬、ものすごく複雑そうな顔をした。
「……あんたがあたしの助けを借りなくても生きられるように祈ってる」
それは当分無理だと思う。
みどりはおっちょこちょいだが、最近はそれに拍車がかかってきた気がする。
「あれ、あれ? 教科書がない」
昨日の放課後、教室に置いて帰ったはずの教科書が、机の中から消えていた。
「また? 隣行って借りてきなよ」
「いやでも、ちゃんと入れといたはずなのに」
「気のせいでしょ」
しょっちゅう忘れ物をしているせいか、奏ちゃんはみどりの言葉を信じていない。おかしいなあと思いつつ、みどりは隣のクラスにいる友人に教科書を借りた。教科書はその後、ロッカーから見つかった。
二度目はペンケースだった。
移動教室の後、昼休みを挟んで机を見ると、ペンケースがなかった。
「えっどうしよう、書く物がない」
「あんた何やってんの?」
奏ちゃんが呆れた顔をしていたが、みどりは焦って机の中を引っ掻き回した。
「なんでなんで? なんでないの?」
「あっちの教室に置き忘れてきたんでしょ。あとで付き合ってあげるから、とりあえずこれ使いな」
渡されたシャープペンシルを握りしめ、「奏ちゃん…!」と感激する。
「その顔いいから。次から気をつけて」
「了解です!」
でも、とみどりは首をひねっていた。
さっきの移動教室の時、みどりはペンケースを持っていたはずだ。いつものうっかりで落としそうになったから覚えている。それともそれは以前の事で、記憶が混乱しているのか。どっちにしても、今ここにペンケースはない。
三度目はハンカチだった。
ゆるキャラのウサギがプリントされたお気に入りで、明るいピンクのタオルハンカチ。お昼ご飯の前に手を洗おうと思ったら、ポケットから消えていた。
「え、え? なんでないの?」
「あんたちょっと最近うっかりしすぎ」
びしょびしょの手を見かねたのか、奏ちゃんが予備のハンカチを渡してくれた。ぴしっと端がそろっていて、きっちりアイロンがかけられた白いハンカチ。洗濯したばかりなのか、ほのかにシャボンの香りがする。奏ちゃんが好んでいる匂いだ。
ありがたく使わせてもらい、返そうとしたら、「いいよ、今日一日持ってな」と言われてしまった。
これだけ続くと、さすがに気になってくる。
(なんだろう……呪われてるのかも)
みどりはオカルトが大好きだが、自分で体験したくはない。
ペンケースは移動教室先にあった。黒板の端にぽつんと置かれていたのだ。誰かが落としたのを拾っといてくれたのかしらね、と奏ちゃんが言っていたから、そうなのかもしれない。ハンカチも廊下で見つかった。こちらは完全に落とし物だ。
「あんたちょっとうっかりしすぎよ本当に」
奏ちゃんに渡されたハンカチを、みどりはおとなしく受け取った。
ハンカチは踏まれたのか、端っこに靴の跡がついていて、ほんのちょっぴり悲しかった。




