田中は山田が気に食わない‐4
もうやめよう。
敗北感に苛まれながら、田中は唇を噛みしめた。
田中は山田に敵わない。
認めたくはなかったが、それは真実だった。
そもそも、スタート地点から違っていたのだ。
田中は目立たないようにしていたが、山田は本当に目立たなかった。
田中は一発逆転を狙ったが、山田は狙っていなかった。
田中は悪目立ちしたが、山田は普通に目立っていた。
認めよう。
山田は目立たない男だった。
――そして、田中よりはるかに目立つ男だった。
いつもは影が薄いけれど、ここぞという時には活躍する。それが山田だ。
たとえ目立っても態度を変えず、次の瞬間には気配を消す。田中がそうなりたいと思っていた存在そのものだ。自分が認めただけの事はある。偉そうで申し訳ないが、断言する。山田はすごい。
そして自分は……認めたくないが、単に目立ちたいだけの男だった。
目立たない事に突出したい? 存在感がない山田が腹立たしい? よく考えろ、そんな事はなかった。
田中は山田よりも目立ちたかった。
彼より活躍し、クラスのみんなに話しかけられ、輝かしい青春を歩みたかった。
それが分かった今、理不尽な怒りは消え失せている。
ただ、ひどい自己嫌悪があるだけだ。
カーテンの影で落ち込んでいると、誰かが入ってくる気配がした。
「……だから、違うっつーの!」
「いいっていいって。認めろよ峯田、それは愛だ」
「愛だよな」
「殺すぞお前ら!」
物騒な事を言いながらやってきたのは峯田くんのグループだった。今日も顔に絆創膏を貼りつけている。
「あれ、なんか落ちてる」
息を殺していると、彼らのひとりが何かを拾い上げた。
「なんだ、宮園のパスケじゃん」
「あいつ、マジでよく物落とすよな。峯田と同レベルの不幸体質」
「一緒にすんな!」
彼らが拾ったのは宮園さんのパスケースだった。近くに鞄が置いてある。どうやら、何かの拍子に落ちてしまったらしい。
そのまま机に戻すのかと思ったら、峯田くんがにやりと笑った。
「いいこと思いついた」
パスケースを持ったまま、彼は後ろの席へと歩き出した。行き先は山田の机だ。
「えー峯田、さすがにちょっと引くわそれ」
「女の子に意地悪すんなよ。山田はいいけど」
いいのかよ。
内心で突っ込んだが、口には出せない。
「うっせえな、黙ってろ」
いいんだよと言いながら、峯田くんがパスケースを山田の机に放り込んだ。中がどうなっているのか知らないが、パフンと乾いた音がする。
「何度も山田が活躍したのは、あいつの自作自演だった。名案だろ?」
「うっわドン引き」
「オレも引いた。峯田サイテー」
口々に言いながらも、それ以上止めるつもりはないらしい。ものすごく悪いやつらではないけれど、お世辞にもいい性格はしていない。
そのうちの片方が、「お祓い行っとけよ峯田」と、おちゃらけたように口にした。
「あーあ、ほんとに歪んでる」
「愛をこじらせると面倒だよな。ヤンデレっていうらしい」
「ツンデレじゃねぇの?」
「殺すぞお前ら!!」
にぎやかに話しながら、彼らが歩いていってしまう。
カーテンの影から抜け出すと、田中はごくりと息を呑んだ。
どうしよう。
この場合の選択肢は二つだ。
ひとつは何も知らなかった事にして、成り行きに身を任せる。山田は大変な事になるだろうが、自分はノーダメージだ。
もうひとつは真実を明らかにして、山田の疑いを晴らす事。
峯田くんには恨まれるだろうが、指紋を調べれば一発だ。山田はノーダメージな上、宮園さんにも感謝される。
……だが、自分は再起不能なダメージを負うだろう。峯田くんはクラスの中心人物 (イケメン)であり、自分は戦闘力ゼロの陰キャである。彼に睨まれたら、おそらくこのクラスでは生きていけない。
どちらもあんまり乗り気になれない。特に二つ目のは絶対嫌だ。峯田くんに恨まれるのは怖い。
それなら、別の選択肢を見つけなければ。
もうひとつの選択肢は――。




