田中は山田が気に食わない‐3
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続く事件は翌日に起こった。
「やだ、教科書がない」
訴えたのは昨日と同じ女子だった。
「え、また?」
「何してんのよ」
昨日の出来事があったからか、友人達も笑っている。
どうせどこかに置き忘れたか、家にでも忘れてきたのだろう。案の定、教科書はロッカーの隅から見つかった。見つけたのは山田だった。
普段使われていないところだが、そういう事もあるだろう。彼女も納得し、それで騒ぎは収まった。
三度目は体育の後に起こった。
「どうしよう、靴下がない」
砂で汚れるのが嫌なため、替えを用意していたという。その替えがなくなっていたらしい。声を上げたのはやはり同じ女子だった。確か、名前は宮園さんだ。
「ちゃんと入れたのに。体育が始まる前は、確かにあったのに」
「もっとちゃんと確認した?」
「ジャージのポケットは? 鞄の隅も見て」
友人が口々に言い、少女は泣きそうな顔で探している。その時、田中ははっとした。
(あれは……!)
ジャージを入れたバッグの隅から、白いものがのぞいていた。考えるより早く、田中は彼女の元へ向かった。
「こっ、こここ、これっ……!」
「え?」
「これ、こっ、これ、く、くつ、靴下じゃ……っ」
指先でつまみ出したものに、宮園さんは一瞬呆け、それから真っ赤になって叫んだ。
「キャ―――――ッ!!」
無言でひったくり、涙目でにらみつける。周りの女子もいぶかしげにそれを見ている。
「あたしの下着よ! 汗かいたから着替えたの! なんなのバカ、サイッテー!」
涙目で叫んだ彼女に、女子が一瞬で状況を悟る。
「うわ、マジで?」
「下着触るとか……」
「ありえない。マジ変態」
氷のような視線が突き刺さる。違うと言いたくても、声が出ない。嫌な汗がだらだらと流れてくる。どうしようと田中は思った。
どうしよう、このままでは人生の破滅だ。
まさかこんな事で足を踏み外すなんて。
下手に活躍しようなんて考えなければよかった。陰キャは陰キャらしく、日陰で生きていればよかったのだ。
美少女高校生探偵が成立するのは、あれがアニメの世界だからだ。どこの世界にイケメンエリート刑事を顎で使う女子高生がいるというのだろう?
やってしまった。
やらかしてしまった。
後悔しても後の祭りだ。クラスの全員が自分を見つめている。
どうしよう、自分は馬鹿だ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
そう思った時、「違うよ」と澄んだ声がした。
「田中くん、靴下探してくれてたんだよ」
「え……そうなの?」
「この間も探してくれてたよ。私、見てた」
声を発したのは、クラスでも目立たない女子だった。メガネをかけた地味な顔立ちで、気が強くて美人な友達がいる。彼女はその友達に「ね、尚ちゃん」と言った。
「あーうん、あたしも見てたわー」
一瞬めんどくさそうな顔をした後、仕方なさそうに彼女が言う。美人はメガネ女子に甘い。彼女は田中をちらりと見た後、心底どうでも良さそうな口調で言った。
「それにそいつ、下着触るような度胸ないでしょ。ひとりならともかく、クラスメイトの前だよ?」
「あ……そういえば……」
はっと宮園さんが胸を押さえる。
「つーか、何度もなくしすぎ。お祓い行きなよ、ミスターと一緒に」
そこでみんながどっと笑った。
「ミスターは無理だわー」
「行く前に危ないって。尚ひどーい」
「ミスターはねー。顔いいのにねー」
あははははっと笑う彼女達に、田中は呆然とした。
え、何これ。なんだこれ。
よく分からないまま、空気が変わったのを感じる。
「はいはい、んじゃ田中に謝って、これでおしまい。靴下どこだろねー」
さらっと流れを変えてくれた本人は、そう言うと田中の肩を叩いて去っていった。残された宮園さんは、きまり悪そうに「…ごめんね」と言ってくれる。
「い、いや、ぼ、僕の方こそっ……」
ほっとした。
泣きそうだった。
余計な事をしなきゃよかったと思ったけれど、無事でよかった。
半分泣きそうになりながら、田中は自分の席に戻った。
靴下はその後、更衣室脇で見つかった。見つけたのは山田だった。
ミスターが不幸男こと峯田くんのあだ名だという事を、後になって田中は知った。ちなみに、「ミスター不幸男」の略称らしい。




