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友達の山田くんには秘密がある  作者: 片山絢森
クラスメイトも色々ある

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13/43

田中は山田が気に食わない‐2


    ***



 その日から、田中は山田の観察を始めた。

 山田は影が薄いので、見失う事もしょっちゅうだったが、二割くらいは成功した。


 クラスで仲がいいのは三崎くん。隣の席になったせいか、山田とは割と話している。こそっと聞き耳を立ててみたら、ひたすら好きなものの話をしていた。おかげで田中は二人の事なら、ご両親と親戚の次に知っているレベルになってしまった。三崎くんはソーダ味のアイスが好きらしい。


 あまりにも見ていたせいか、一度などは体育の授業で見つかってしまい、徒競走に引っ張り出された。心から放っておいて欲しかったが、そうもいかないのでおとなしく走った。ちなみに田中はブービーだった。つまり、ビリから二番目だ。

 ついでに言うと、最下位はぶっちぎりで峯田くんだった。彼は本当に運が悪い。


 そんなミスはあったものの、観察は継続して行っている。

 山田は当番を頼まれる事が多い。つまり、便利屋のようなものだ。


 いい気味だ。働け。働くがいい。在りし日のサラリーマンのように働け。

 内心でほくそ笑んでいたが、はたと気づいた。誰かに何かを頼まれるたび、山田は人と接している。つまり、目立っている。


「山田ー、あたし具合悪いから先帰るねー。ノート運んでおいてねー」

「山田、ちょっとこれ代わってくんね? 俺今日用事あってさ」

「山田くん、プリント集めてもらっていいかな?」


 山田は頷くだけだが、全員とコミュニケーションが取れている。


(くそ、山田め……!)


 お前もこっち側の住人だろう。なんでそんなに人気がある?

 目立たないうえに、名字は山田。なんの取り柄もないはずなのに。


 お前は全国の山田さんに謝れと言われるかもしれない。確かにそうだ。暴言だった。どうも申し訳ありませんでした。

 田中は山田以外の山田さんに嫌われたくはない。田中の好きなアイドルの名字も山田さんだ。


 せめて、山田の弱点が分かったら。

 苦手なもののひとつでも知ったら、きっと優越感に浸れるのに。

 自分の性格が最悪な事は自覚している。田中は根暗だ。おまけに陰湿だ。


(くそ、山田め……)


 そんな風に悶々としたまま時間は過ぎ、やがてひとつ月が変わった。

 相変わらず山田は視界から外れ、それなのにクラスに溶け込んでいる。三崎くんを始め、様々な人との交流もある。


 いいなと思う。田中は孤独だ。


 入学して三か月が過ぎようとしているが、クラスで親しい人間はいない。休日に遊ぶような友達もいない。

 美少女高校生探偵が出てくるアニメをこよなく愛し、オタクな世界にどっぷり浸かり、話す相手はフィギュアだけ。それでいいと(うそぶ)いてはみるものの、周りで騒ぐクラスメイトが気にならないはずもない。


 せめて、何か事件があったら。

 偶然自分が通りかかり、偶然自分の力が必要で、偶然鮮やかに解決できたら。

 田中の毎日は劇的に変わり、この状況をひっくり返せるのに。


 もしも何かが起こったら。

 そうしたら、きっと。


 田中は真剣にそう思っていた。そうなればいいと願っていた。

 そんなある日、事件は起こった。



    ***

    ***



「あれ、財布がない」

 言い始めたのはクラスの女子だった。


「ねえ、誰かあたしの財布知らない? 鞄に入ってないんだけど」

「え、やだ、落としたの?」

「さっき購買行ってきたから、その時まではあったんだけど……」


 首をひねるが、思い出せないようだ。なんだなんだと人が集まり、ちょっとした騒ぎになる。

「もしかして、盗まれたとか?」

 誰かの言葉に、どきっとするような沈黙が満ちた。


 盗難。

 放っておけない重大な事態だ。案の定、財布をなくした女子が泣きそうな顔になる。


「途中で落としたのかもしれないよ。あたし、探してくる!」

 友人と思われる別の女子が教室を飛び出していく。周囲も財布が落ちていないか、きょろきょろと辺りを見回している。


(ここで……もし僕が)


 彼女の財布を見つける事ができたなら。

 自分はヒーローになれるんじゃないか。クラスの危機を救った英雄として。


 それは悪くない考えだった。

 がばっと床に這いつくばり、田中は彼女の財布を探した。近くにいたクラスメイトが「うおっ」とのけぞったが、そんな事には気づかなかった。


 奇しくも先週、美少女高校生探偵の助手であるエリート刑事がブランドスーツを泥だらけにして捜査していたのを観たばかりだ。彼と同じ真似ができないはずはない。

 田中は気合いを入れて探した。目を皿のようにして探した。廊下から購買までの道も探した。帰り道と別ルートも探した。靴箱まで見に行った。


 だが、財布はなかった。

 肩を落として教室に戻ると、みんなが歓声を上げていた。


「山田が財布見つけたんだって!」

「購買脇の自販機の影で発見したらしいぞ。すげえよ山田、お前やるな!」

「影薄いけど、こういう時に頼りになるよな。山田……下の名前なんだっけ?」

「山田すげえよ。なんかよく分かんないけどすげえ!」


 みんなに褒められながら、山田はいつも通り淡々としていた。

「それほどでも」


 呆然とする田中を、通りすがりのクラスメイトが見た。

「お前……なんか埃だらけだぞ?」

「………………」

「はたいとけよ。じゃあな」


 肩を落とし、田中は敗北を噛みしめた。

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