エピローグ
本日2話目です。
桐生くんと別れ、陽太は教室に足を向けた。
桐生くんは先生に自分のした事を告白するつもりだったが、陽太はひとまずそれを止めた。三度目は桐生くんのせいじゃないし、このままだとそちらの責任も取らされる。怪我人が出たわけでも、誰かを傷つけたわけでもない。彼はただ、空に花を咲かせただけだ。
(……それに)
多分、言わない方がいい。そんな予感があったからだ。
ちなみに、昨日は陽太に指摘された事に動揺して、花火の後始末を忘れて帰ってしまったらしい。詰めが甘いなと苦笑していた。その顔もやっぱりイケメンだった。桐生くんは顔がいい。
教室に戻ると、ひとりの生徒がそこにいた。
「おかえり、山田くん」
「ただいま、三崎くん」
いつの間にか戻ってきていた山田くんが、陽太に涼しげな目を向けた。
「ねえ、あれやったの、山田くん?」
「何の話かな。よく分からないけど」
山田くんはいつも通り落ち着いている、物静かで、影が薄い。陽太の大切な友達であり、不思議な世界を知っている。
「異世界の扉、ちゃんと開いたよ」
「ならよかった」
ほんの少し目を細めて、山田くんが笑う。
「山田くんが目撃したの、桐生くんだったんだね」
「正確に言うと、後ろ姿だけどね」
「俺ほんとに何かを目撃したのかなと思って焦ったよ」
「三崎くんに手は出させないよ」
さらっと言われ、陽太はそのカッコよさにときめいた。山田くんは頼りになる。陽太は山田くんの事が好きだ。恋ではない。念のため。
「桐生くんは不思議が好きなんだね」
「なぜ彼じゃなかったのか……」
「山田くん、それは言っちゃ駄目」
二人で顔を見合わせて、ふふっと笑う。これは陽太と彼の秘密なのだ。
――山田くんは放課後、とある場所へ行っている。
毎日三十分だけだし、それを知る人は他にいない。陽太も偶然の出来事がなかったら、今でも知らないままだった。
そこはこの世界とは少しだけ違っていて、だけど同じところもあって、とても素敵な世界だった。
桐生くんが憧れたのも、きっとあんな場所なのだろう。
「いつか、桐生くんも行けたらいいね」
「そうだね、いつか」
「藤崎さんとか」
「もちろん」
「吉川さんも?」
「そうだね」
「芳野くんと青根くん」
「まあいいか」
「峯田くんは?」
山田くんは聞こえなかったふりをした。
「帰ろっか、山田くん」
「そうだね」
山田くんは頷いて鞄を持った。その拍子に、一枚の紙がひらりと落ちる。
「あれ、その紙……」
そこにはなぜか、先ほどの花火と同じ模様が描かれていた。
山田くんは何食わぬ顔で紙を折りたたみ、鞄の中にしまった。
「ねえ、やっぱりさっきの、山田くんじゃない?」
「そうかな、どうかな」
「もう……。しょうがないなぁ」
陽太が苦笑すると、山田くんも小さく笑った。
空はよく晴れている。明日もいい天気だろう。
どこか遠くで、花火の音がポポンと鳴った。
了
お読みいただきありがとうございます。もしかしたら、いつか、きっと。
というわけで、『隣の山田くんには秘密がある』の続編です。誰も頼んでないけど戻ってきました! 本編はこれで完結ですが、物語はまだ続きます。本編1~3話くらいの別視点の予定です。よろしければそちらも是非お楽しみくださいね!




