儚さ
...しばらくは不定期投稿になりそうです。
二頭はお互いに目配せすると、傷つきは一歩下がりもう一匹が俺に突進してくる。
物凄い速度と圧迫感だ。
軽トラ...いや、中型トラック位はある巨体がそこそこの速度で突進してくるのだ。
しかも、こいつらは人間が居たからと言って停まってくれない。
だが前世でなら怖気づくような光景でも、今の俺なら問題ない。
...ある程度は興奮のせいもあるのかもな。
〔ブギーッ!!〕
「うるせぇっ!」
ザ ガーンッ
!!
...少しは通ったが...硬い!
素早く跳び下がり、間合いを保つ。
突進してくる相手だったから、突きで応戦しようと思ったが...斬りつけるのは兎も角、正面から迎え撃つのは難かしいかも...な。
「【飛斬】!」
〔ガッ!!〕
後ろからもう一匹が迫ってきていたので、牽制しておいた。
勿論そのまま俺を通り過ぎてジェリクさん達を追うようなら追い越して再度立ちふさがるつもりだったが、どうやら二頭は協力して俺を倒す事にしたようだ。
にしても、なんで逃げないんだよ...野生の動物ならこんな馬鹿みたいに執拗に戦わないだろ。
もっと弱い敵探せよ。
はぁ...やるか。
まずは強い方を倒すとしますか。
闘技を使わず、だが全力で踏み込む。
無傷のアサルトボアは一瞬ビクついたが、すぐに気を取り直して迎え撃つが如く俺を見据えた。
そして、俺の攻撃と合わせるように牙を上げようとし――すぐ顔を背けた。
だが遅い。
「『火点撃』!『飛斬』!」
強化した一撃から放つ、飛ぶ斬撃。
〔ブゴッ!〕
どうやら強化した一撃は飛斬には効果を及ぼさないようだ。
何にせよ、二連撃だ。
だが、脳天をかち割るつもりだったんだが...外したな。
とは言え、左肩を深く斬りつけたんだ。
時期に倒れるだろう。
...いや、魔物だし案外これからも回復するかもな。
ピキッ
!
しまった、硬いものに火点激を放ったせいで剣に罅が入った!
これじゃあ普通に斬るだけでも二撃も保つかわからないぞ...
どうする...
...
俺は今斬りつけたアサルトボアの左側に回った。
そして、コイツが振り向く前に、そしてコイツの向こうにいるもう一匹のアサルトボアが動く前に――
「『超集中』!『火点激』『吹風速』『流水踏』『地返し』ィイッッ!!うおおおおおおお!!!」
超集中で高めた集中力の中でまるで早口言葉のように闘技の技名を叫び、突進し、超集中状態でも尚目が追いつかない程の速度で、それでも技をしっかり意識し、一頭を叩き切った勢いのままもう一匹も倒そうとした。
剣が折れそう?
なら最高の一撃を持ってして相手諸々破壊してやろう!
この時、俺の頭の中にこの剣が借り物だと言う事実は等々なかった。
だが。
〔グブ...ブガッ〕
〔ブギ!〕
鼻が割れていた方のアサルトボアが突進し、もう一頭を弾き飛ばし、その身を献身してもう一頭を守った。
その代償は当然高く、そのアサルトボアは元々割れていた鼻から腰までを両断された。
だがその最も高い代償は見事に俺を無力化することに成功した。
俺の剣は刃は粉々になり、鍔も割れて地面に落ち、柄にも罅が入った。
だが、俺の中に怒りは無い。
ただ、深い哀しみだけがあった。
もう一匹のアサルトボアは数度死んだ同胞を揺すった後、瞑目し、俺にそれまで以上の殺気の篭った目を向けた。
だが、その視線を迎えたのが消沈した目だったせいだろうか、動揺し一歩引いた。
片方のアサルトボアの自己犠牲を目にし、なんでまだ戦うのだろうかと言う思いが沸く。
だが、アサルトボアの目にある殺気は仲間を殺された物も当然あるが、どこか達観したそれもあるように感じた。
まるでこれが自然だと言うかのような。
殺し、殺されるのが普通だと諦めたような。
その目にある殺気は恨みのそれよりも生存のための物の方が強いように思えた。
それがより一層哀れさを強くさせ、哀しさを増幅させた。
だが、仕方がないのだろう。
あの二匹だって、殺させる覚悟を持って山を越え、俺達と戦ったはずなのだから。
だが、だとしても、それにしても...
強い衝撃を受け、弾き飛ばされる。
咄嗟に受け身を取り、転がり落ちた衝撃を減らす。
...そうだ。
あのアサルトボアはまだ戦う事を諦めてはいないんだ。
深い傷を負い、仲間を殺され、圧倒的な力を感じても尚、俺と戦う事を諦めてはいないんだ。
じゃあ、俺が諦めてどうする。
剣が無いなら手で、足で、歯を持って戦ってやる。
あっちが悲しみに負けていないのなら、こっちだって負けてたまるか。
「ゲントー!剣、出来た!ッ!やっぱり、持ってきて正解だったな。」
...はは。
流石としか言いようが無いな、ご都合主義。
「ほら、受け取れ!」
俺は投げつけられた剣を受け取る。
そして、鞘から抜く。
刀身が煌めく。
鞘を捨てると、アサルトボアは再度突進してきた。
それに交差するように、走り抜き、振り抜く。
ドサリ、と言う音が後方から響いた。
「...儚いな。」




