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言い出せ4話



ー4話



彼女はハシビロコウのシャッターの前に来てくれた。

米津玄師やボーカロまで一緒に歌った。

「あの。四谷天窓。ありがとうございました。嬉しかったです。あのライブで…もうやめて、実家に帰るつもりでした」

「嫌な事いっぱい言われてた?」

「毎日。必死でコメ削除してました。でも、あのライブの後、なくなりました」

「春菜さんの声は本物だ。でも表現する生かす力がない。本物でも、ガラスケースに入れてリボン掛けないと商品にならない。ジョンレノンがオノヨーコを必要としたのは、ジョンに商品化する力が無かったし嫌いだったからだ。勉強しなきゃな!まぁ僕もだけどね」

「はいっ」

春菜はフフッと笑った。



夢のような1年が過ぎて行った。

クリスマスに下北沢440でジョイントライブを二人でやった。

入りきれないファンの為に、外に出て駅前まで練り歩いて警察に怒られたりもした。

春菜が小林のアパートに来て、手作りケーキ失敗してケーキ屋さんに買いに行ったりもした。


1年がたち、春菜も小林も登録者2万を抱えるユーチューバーになっていた。しかしメジャーデビューの話しもなく、相変わらずバイトとライブの日々が続いていた。

そんな日々の池上商店街の路上ライブの後、スーツを着た部長っぽい男に声を掛けられた。

8月の蒸し暑い夜だった。

「カラオケフリーダムの稲沢と申します。少しお話をさせて頂けませんか?」

名刺を渡して来た。

長くなる予感がした。

「みんな。今日は打ち上げは僕抜きでやって。三ノ宮さん、春菜をアパートまで送ってやって下さい」

「すいません。皆さん」

不満そうな春菜をみんなが促して、稲沢と二人になった。


京王井の頭線で渋谷まで出て、メンバーズクラブに連れて行かれた。

「稲沢さん。いらっしゃい!まぁミュージシャンの方?」

着物をきちっと着て、寸分の隙もないママが迎えた。

「ママ。小林智昭くんだ。ユーチューバーでカバー動画上げてる」

パッと笑顔になった。

「もしかしてって思った!知ってます!美里さんのカバーとか見てますよ!握手しても良いですか?」

小林は高級感に戸惑った。銀座でないからと言って馬鹿に出来ない。大手が接待用に使う、隠れ家的なバーだ。

柔らかいが強く握られた。聞いた事が有る。バーのママが手を握るのは重要な客の接待相手で、強く握られたらVIP待遇だと…。 

しかもママがテーブルに付いた。



高級そうなバーボンが運ばれて、シングルフィンガーの水割りが作られた。

「小林くん。今、フィメールサーバントでウチが苦戦してる。ウチのオケを作ってる連中は、どうもフィメールの独特のニュアンスが出せない…飲んで下さい」

稲沢は、グラスを持って促した。

小林は一口含んだ。フワッとした薫りが拡がる。これは酒で、普段の焼酎やビールはアルコールだと悟った。 

「…小林くんなら、あのニュアンスが出せると思ってる…どうだね?」

小林は間を置いて言った。これはチャンスだ。つかまなければならない。春菜の為にも…。

「美里さんの独特のクセが有って、ちょっとした事を入れるだけでニュアンスは出せると思います」

稲沢は頷いた。 

「それを聞きたかった。本当は、フィメールをやってもらいたいんだが…ウチの連中にもプライドが有るし、社長を納得させなきゃならない。美里さんの路上ライブのオケで数字が出れば、必ずフィメールも44もリリアントワネットも君にやって貰うようにする。申し訳ないが我慢して欲しい」

稲沢は頭を下げた。カラオケフリーダムの幹部が、路上ライブのチンピラクラスに頭を下げる事などあり得ない。

「何か訳有りですか?」

稲沢は遠くを見る目をした。

「現場を知らない。見に行かないからね。私は自費でヒトカラに行って耳を澄ます。廊下に音は漏れないが横の壁からは、隣の歌が聞こえる」

稲沢はグラスを持ったまま、氷を見詰めた。

「フィメールの人気の割に連続で歌われない。ドリンクバーで会話を聞いていると、フィメールさぁ何かチゲくない?って話してる。何度も原曲とオケを聴き比べてみた。ほんのわずかな感じを、お客さんは違うと感じるんだね。それくらい何って事をね」

「カバーやってるとコメントで来ますよ。ここ違和感有るから残念とか、口が合ってなかったら真っ先に指摘されます。エフェクト処理でダビングしたりするとズレたりして、このくらいって思ったら怒られますね。雑になってきたってね」

「上まで行かないんだ。会社がデカイと。悔しいよ。数字なんだよ。良い音楽がいっぱい有るのに、数字がないとね、説得できない。情けない」

稲沢はグラスを握り締めて震えた。

「やりましょう。数字出しましょう」

稲沢は泣いていた。




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