戦いの火蓋が切られました!
雲ひとつない青い空。燦々と輝く太陽が円形の闘技場を照らしている。
ピクニック…じゃなかった、模擬戦にはもってこいのお天気ね!
「では、両者前へ」
闘技場で向き合っているのは銀髪をひとつに束ねて見習い騎士用の装束を身に纏う少女と同じ服装の爽やかそうな少年。
公爵令嬢アリアと伯爵子息のイザークということになっているけど、本当はアルバート辺境騎士団所属の騎士セリアと伯爵子息のイザークである。
本物の公爵令嬢アリアは学園のメイドに扮している私です。いつもセリに会いにいく時用の黒いカツラに、アルバート辺境伯が作ってくれたかけると瞳の色が黒に見える眼鏡。我ながら完璧な変装だ。
セリアは寮で大人しくしててって言ってたけど、心配で来てしまった。それに、久々にセリの勇姿が見たいというのもある。
「始め!」
審判の声で試合が始まった。
最初に動いたのはセリア。迷いなく踏み出すとイザークに頭上から斬りかかる。
公爵令嬢が相手という事に戸惑っていたイザークだけど、相手が只者じゃないと判断し慌てて剣で受けると、その顔が歪んだ。たぶん想像以上に重い攻撃だったからだろう。しかし、そのまま押されるのではなく、剣を傾けて衝撃をいなした。さすがは学園一の剣士と呼ばれるだけの事はある。その様子にセリはニヤリと微笑んだ。
「イザークのやつなかなか善戦しているな」
私の後ろから聞こえた声に飛び上がる!
「リっ…殿下、なぜこのような一般席に?」
そう、声の主はリオン様だったのだ。彼には王族用の一番見やすい席が用意されている筈なのに。
「それは…「リオン様!本当に来て下さったんですね!」
鈴のように軽やかな声が響く。ソフィー様だ。
なるほど、リオン様はソフィーと一般席で観戦なさる約束をしていたのですね!さすがです!
「…ああ。」
リオン様は何故か苦渋の決断という顔をしている。どうしたんでしょう?
私が考え込んでいるとワア!と会場が湧きたった。慌てて試合の様子を見ると戦況がひっくり返りイザークがセリアを押している。ように、見える。
「あれは…」
「遊んでるな」
リオン様のいう通り。セリは攻撃を防ぐことしか出来ていないように見えて、実のところ攻撃を受け流しており、攻撃に押されて後ろに下がっているように見える足取りは軽く、踊っているかのようだ。
こうなってしまうのも仕方ないだろう。
セリアの所属するアルバート辺境騎士団は今まで何十回と他国の侵略を防いで来たこの国最強の騎士団。更に、セリはその中でも5本の指に入る実力を持つ。
たとえイザークが天才だったとしても場数が違う。
だんだんイザークの息が上がってきた。もう限界だろう。疲労でおざなりに振り下ろされた剣をセリアが弾く。
キィンと甲高い音を立てて剣が宙を舞う。その剣に気を取られていた観客が2人に目を戻すと、そこには跪くイザークと彼の喉元に剣を突きつけるセリアがいた。
「そこまで!勝者アリア・レイフィールド!」
審判の声に一気に会場が湧きたった。
セリアは今の試合までに3人程に勝っているけど、とうとう優勝大本命であるイザークにまで勝ったことで会場中がセリアに期待し始めている。
退場したセリアはしばらくシェーラ様達と話をしていたけど、マーガレット様に何かを言われてこちらを見る。
まずい。目合った。
「お姉さまなにしてんの?!」とその目は語っている。
セリアはシェーラ様達に断りをいれるとこっちに向かって駆けてきた。途中で私の側にいるリオン様とソフィーに気づいたようで思いっきり顔を顰めていた。うん、めんどくさいと思ったんだね。
「御機嫌よう、殿下」
階段を駆け上ってきたのに息ひとつ乱さないのは流石だけど、お辞儀の形は騎士のものだ。普通の令嬢はそんな礼しないから!
「さすがだな。このまま優勝できるんじゃないか?」
リオン様は気にした様子もなく言う。
「どうでしょう。まだ強敵は沢山いますからね」
「次は俺とどうだ?」
「まさか。殿下に剣を向けるなどできませんよ」
2人は普通に談笑してるけど、セリアは私に話しかけたくてうずうずしている。
「リオン様!」
ずっと蚊帳の外だったソフィーが声をかける。
「あの…そろそろお昼でしょう?私お弁当を…」
きた!お弁当イベント!
「ああ、そうだった。アリア、弁当は?」
リオン様!私のお弁当なんかよりソフィーのお弁当でしょ?!
「控え室に置いてあります。取ってきますね。そちらのメイドさん、手伝ってくれますか?」
セリアの目がキラリと光った。
ひえー…
「もう!お姉さまなにしてんの?!」
リオン様の前からさっさと私を連れて立ち去ったセリアは私の予想通りのセリフを吐く。
「だって、セリが心配で…」
「私が正式な騎士にもなってない学生に負ける訳ないじゃん」
セリは頰を膨らませて言う。可愛いなあ。
「それは分かって「あっれー?アリア嬢じゃないすか」
その場に第三者の軽薄な声が響いた。
「えーっと…」
「ソルガ様!」
ソルガを始めて見たであろうセリアに助け舟を出す。
「あれ、見慣れないメイドさんだ。可愛いね、名前は?」
ソルガは私の変装には全く気づいていない様子で声をかけてきた。それにしても、この人本当に見境いありませんわね。
「御機嫌よう、ソルガ様。この方は我が家のメイドです。お父様に言われて私の試合を見にきてくださったんです。気安く近づかないでくれますか?」
セリアから殺気が…
「へえ、レイフィールド家はメイドさんも可愛いんすね。あ、アリア嬢は騎士姿も美人っすね」
ソルガはセリアの姿を眺めてニヤっと笑う。
(なにこのチャラ男。殴っていい?)
(ダメ!こんなんでも一応子爵子息だから!)
付き合いが長いからか、双子だからなのか。セリの言いたい事は目を見れば分かるし、セリも私の言いたいことを分かってくれる。
「アリア様、早く殿下の所へ戻りましょう。」
私はセリアを急かす。リオン様の名前を出せばソルガも引いてくれるでしょう。
「おっと、それはお引き止めして申し訳ありませんでした。」
ほらね。
「では失礼致します」
セリアは優雅に礼をするとその場を去ろうとする。良かった、今度はちゃんと令嬢のお辞儀だ。
「アリア嬢」
ソルガがセリアを呼びとめた。
「まだ何か?」
「決勝戦、楽しみにしてますよ」
そう言ったソルガはいつもの軽薄な笑みではなく、獲物を見つけたハンターのような不敵な笑みを浮かべていた。




