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胃袋を掴みましょう!

「無理言ってごめんなさい。ありがとうございます!」


私はリオン様に頭を下げる。


「別に。参加者が増えれば学園長も喜ぶだろ」


素っ気なくリオン様は言う。

婚約者のワガママに振り回されて困っているって感じだ。うん!いい感じいい感じ。


「何ニヤニヤしてるんだ?そんなに模擬戦出たかったのか?」


リオン様は私の頰を片手で挟み込む。私はたぶん立派なひよこ口になっているのだろう。


「ふっ、ぶっさいく」


「誰のせいですか!」


リオン様はどうも私のほっぺたで遊ぶのが好きらしい。


「もう、赤くなったらどうするんですか!私は女の子なんですよ!」


「女は化粧で頰を赤くするじゃないか」


良かったな手間が省けて、とリオン様は笑う。


「それとこれとは別でしょう?!」


頰をさすりながら私は文句を言った。


「アリア、昼これからだろ。一緒に食べないか?」


なんだかんだ言いながらも婚約者を気遣うのはさすが王子である。

でも、そんなんだと他の男の人にソフィーを取られちゃいますよ!


「ダメですー。今日はシェーラ様たちと食べる約束をしてるんです。」


だからリオン様はソフィーをお昼に誘いましょう!


「どうせいつもと同じメンバーだろ。偶には婚約者と食べるのも悪くないだろう」


「今日はマーガレット様がクッキーを焼いて来て下さるんです。だから外せません!」


マーガレット様のクッキーはとても美味しいんだから。


「俺はクッキー以下か…」


「ただのクッキーじゃありません。マーガレット様の手作りなんですよ!」


「手作りって…あ、じゃあ詫びに明日弁当作ってこいよ」


リオン様が思いついた様に言う。


「そういえば、明日は模擬戦の最中にお昼でしたね。」


模擬戦をやる会場は学食のある建物から一番遠い。だから皆各自でお弁当を持ち寄るのだ。


そういえばリオン様ルートではお弁当絡みのイベントがあった。リオン様はヒロインにお弁当を作ってくれと頼むんだ。だけどお弁当を渡している時にアリアが現れて自分の弁当を押し付けた挙句、ヒロインのお弁当を馬鹿にして地面にぶちまけてしまう。涙ぐむヒロインだけど、リオン様は落ちた中で比較的綺麗な卵焼きを拾って食べる。そして微笑んで言うのだ「ん。うまい」って…キャー!思い出しただけで鼻血出そう!


そうか、これはそのための布石だ!

さすが、乙女ゲームの魔力。私が忘れてた事まで思い出させてくれる!


「わかりました!一生懸命作ってきますね!」


「ああ、楽しみにしてる」


ふっと笑いがうっかり口から溢れたみたいに笑うリオン様は本当にカッコいい。


私はルンルン気分でその場を後にした。


***


「アリア様、ご機嫌ですわね」


オレンジに近い金髪を揺らしてマーガレット様が言う。いつも昼休みに使うテラスの私達の指定席には、仲良し4人組が集合している。


「殿下と何かあったのではなくて?」


悪戯っぽく笑うのは黒髪にルビーのような目が素敵なシェーラ様だ。


まあ、と目を見開くのは茶髪の髪を白い花飾りでハーフアップにしているリリィ様。


全員この学校に入学する前からのお友達だ。


「先程リオン様に明日お弁当を作ってくれと頼まれましたの」


リオン様に関する話をすると皆楽しんで聞いてくれるから嬉しい。


「それは良いですわね。アリア様はお料理が上手ですもの」


マーガレット様が柔らかく微笑んで言う。あの母性溢れる笑顔、見習いたい。


「マーガレット様には敵いませんわ」


「でも、アリア様もマーガレット様も令嬢の身でありながら料理を嗜むなんて珍しいわよね」


シェーラ様が言う。


「私は弟の食が細かったから。お菓子でも作ったら食べてくれるかと思いましたの」


マーガレット様には年の離れた弟さんがいる。今年で10歳の弟さんは天使みたいに可愛らしい。


「素敵ですね。アリア様は?」


「私はリオン様が好き嫌い激しくて…」


本当は好き嫌いなんてレベルじゃない。

まず、野菜は全般的にダメ。乳製品も嫌い。魚は骨があるから嫌。肉も硬いのは食べない…


このままでは病気になってしまうと、シェフと王妃様と一緒に緊急会議。なるべく食べやすくと試行錯誤するうちに最初は試食係だった私も調理を手伝うようになった。


努力の甲斐あってリオン様は大概のものを食べてくださるようになった。それでもたまにお気に召さない事もあるのだけれど、「一生懸命作ったんです」と主張すると残さず食べてくれる。リオン様は人の努力を無下にはしない方なのだ。


「では殿下の為に?素敵ですね」


ポーっとした顔でリリィ様は虚空を見つめる。

リリィ様ー帰ってきてー。


どうやってリリィ様を夢の国から連れ戻そうかと考えていると急にテラスが騒がしくなった。


「まーたソルガ様ですわ」


シェーラ様が大袈裟に顔を顰めて入り口の方を見た。


テラスに入ってきたのは赤に近い茶髪を短めに切りそろえた、ダークブラウンのタレ目が特徴的な男子。周りには7、8人程の女子が群がっている。


「ソルガ様の周りはいつも華やかですわね」


煩さは意に介していないらしいマーガレット様が感心したように言う。


私はソルガの様子を注意深く観察する。なんたって彼は『モテ男』ポジションの攻略者なのだ。


「ソルガ君は明日の模擬戦でないの?」


「俺は運動あんまり好きじゃないから。それに、俺がそばを離れたら誰がエマちゃんを守るの?」


エマ様が「きゃー!」と叫ぶ。


「エマ様ばっかりずるーい!ソルガ君、私も明日一緒に観戦しますわ!」


「私、明日ソルガ君にお弁当作ってきてあげる!」


私も私もと周りのご令嬢が一気にはしゃぎ始める。


…さすがですわね。


ソルガは子爵家の養子なのだけど、彼の周りに集まっているのはそれより位の上の家のご令嬢ばかり。つまり、家柄ではなく本人の魅力で女性を集めているという事だ。恋のライバルになるとしたらこれ程手強い者はいないだろう。


でも、彼はあまり警戒しなくて大丈夫。何故ならソルガはこのゲームの中で最も攻略が難しいキャラなのだ。表面上は軽くて誰でも受け入れそうだけど、自分の本心は晒さない。その上、実はリオン様の腹心の部下で、リオン様を裏切らない為にリオン様がヒロインに好意を抱いていると攻略することは出来ないという厄介なキャラクターなのだ。


「アリア様、どうかしましたか?」


リリィ様が遠慮がちに聞いてくる。


私ったら、つい考え事に夢中になっていたわ。


「なんでもありませんわ。ソルガ様の事は気にしないで食事を続けましょう」


私が、ソルガ様の事を警戒するべきだったと後悔するのはもっと後の話。


新しい名前がいっぱい出てきましたが、とりあえずソルガだけ覚えとけば大丈夫です!

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