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彼女の正体


「ーえ?」


ソフィーが砕けたネックレスを呆然と眺めていると、リオンが立ち上がった。


「捕えろ。」


リオンが恐ろしく冷たい声で告げると、ソルガがソフィーの腕を後ろに組んで拘束する。


「な、何をしているのですか?!殿下!」


イザークがリオンに詰め寄る。


「すまない。イザーク殿にかけられた魔術は根深かったらしくてな。術者本人以外にはどうにも出来なかったんだ」


「な、何を」


イザークが戸惑ったようにソフィーを見る。


「リオン様?!どうして私を拘束するの?悪いのは全部あの女よ?」


ソフィーはリオンを見つめて言う。


「悪いが、俺にはもう効かないぞ。さっきまではネックレスに魔力を感知させるためにかかった振りをしていたが」


「ネックレス…?」


ソフィーは砕けて自分の足元に散らばっている宝石を見つめる。


「それは一定以上の魔力に反応する鉱石だ。君が魔術を使って他人を操っているのは分かっていたが、証拠がなかったんでな。一芝居打たせてもらった」


「そんな」


ソフィーは愕然と周りを見渡す。


「ここにいるのは学園の生徒ではなく、特別に協力を要請した騎士たちだ。見知らぬ顔ばかりの筈だが気づかなかったということは、やはり君の狙いは王太子だったということだな」


貴族の子息子女だと思い込んでいた者たちは、隠し持っていた武器を手に油断なくソフィーを見ている。


「ソフィー嬢、貴女の魔術は人心を掌握する極めて強力なものですが、その全ての力を見せずに催眠作用のある香料と併用していたのは見事な手腕でした。貴女の持つ香水だけでも、貴女から発せられる微量の魔力だけでも、魔術で人を操っているという証拠にはならない」


ルースがレポートを読み上げるようにスラスラと言葉を続ける。


「そこで、魔力に反応する鉱石をネックレスにして今朝殿下からプレゼントして頂き、この広い講堂の離れた場所の人間を証言のために操る状況を作りました。」


ー『この中で、イザーク殿の他に私の姿を見た者は?』


アリアのあの言葉は、ソフィーに魔術を使わせる為の誘導だったのだ。


「一人操るだけでは鉱石が反応するほどの魔力は必要なかったようですね。正直焦りましたが、その後殿下に婚約破棄宣言をさせようとしてくれたおかげで証拠を得ることができました。」


ルースの言葉にリオンは少し不機嫌な表情になる。

芝居でも婚約破棄宣言などしたくなかったらしい。


「学園の生徒を利用し、アリア嬢の醜聞を捏造。そして、魔術で俺を篭絡し王太子妃の座につく。それがあんたの目的だったんだよね?」


ソルガの言葉にソフィーは俯いたまま答えない。


「だが、ひとつだけ分からないことがある。君は本物の男爵令嬢なのか?それとも…」


「黙れ!」


ソフィーが顔を上げて叫ぶ。その瞳は赤く輝いていた。


ソフィーの足元から突然黒い影が生まれ、リオンに襲いかかる。


「主!」


ソフィーを取り押さえていたソルガが慌てて叫ぶがリオンは動かない。


ギン!と鈍い音がして黒い影は白銀の剣によって阻まれた。


「どうしてあなたが!」


剣を持ち、リオンとソフィーの間に立ち塞がっていたのはアリアだった。


「先程殿下がおっしゃってましたよね?ここにいるのは特別に協力を要請した騎士たちだと。」


ザンと影を薙ぎ払いソフィーを見遣る。


「アルバート騎士団所属、セリア・アルバートです。王太子殺害未遂の罪、並びに公爵令嬢を陥れようとした罪により貴方を拘束します。」


セリアは剣に刻まれたアルバート騎士団の紋章を突きつけた。


「騎士?まさか、最初から私を誘き出すために…」


そこまで言ってソフィーは言葉をつぐんだ。初めから全くの他人である彼女がアリア・レイフィールドの振りをしたいたのなら、『公爵令嬢を陥れた』という罪状は成立しない。つまり、セリア・アルバートとアリア・レイフィールドはよく似た別人で、今日だけソフィーを捕まえるために入れ替わっていたということになる。


「は、ははは…私の邪魔をするのがよりによって双子の女だったなんてね」


ソフィーの体から今までの比ではない禍々しいオーラが発せられる。


「ソルガ、下がれ!」


リオンの言葉にソルガがソフィーから飛び退くと同時に彼女を中心に爆風が起こり、部屋中のガラスが破られる。


「魔術、双子、そしてクランベルク王家に恨みを持つ者…あなたはエミリア・ドミニウスの縁者か」


「いいえ、私がエミリア・ドミニウスよ。百年余り消えかけの亡霊として漂っていたけれど、やっと私に見合う器を見つけた!それが、この少女よ」


リオンが驚きで目を見開く。


「でも、もっといい器を見つけた。王子、あなたが手を出せない相手で、公爵令嬢で、おまけに双子」


「待て!」


割れた窓から外に飛び出すソフィー。


「殿下!お姉様はどこに!」


「寮の自室で眠っているはずだ。護衛もつけているが、相手があそこまで手練れの魔術師となると」


「主、寮が!」


ソルガの言葉に女子寮を見ると、毒々しい荊が建物全体を取り囲んでいた。


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