アリアとセリア
私の家族は毎年夏にこの国の果てにあるアルバート領にある別荘に遊びに行く。
アルバート辺境伯は父の学生時代の友人で、貴族なんだけど化学研究に没頭しているという少し変わった人だ。
アルバート領は広大な領地であり、故に私たちの別荘も広い。だから最初は全く気にしなかったのだ。私が今まで別荘の外には一歩たりとも出れていないという事を。
この別荘に来ると必ず、お母様とお父様は二人きりでデートに行く。二人が帰ってくると決まってお兄様が何処かに出かける。アルバート領に滞在する2週間のあいだ、一日置き、下手したら毎日そんな事をされていたら流石に「何かある」と思うだろう。
何だろうと気になり続けて数年、私が10歳の時にチャンスは巡ってきた。お父様とお母様がデートしている時に、お兄様のご学友が遊びに来たのだ。私は「部屋で大人しくしていますわ」と嘘をついて、街へ繰り出した。ふらっと街に出ただけでお母様達の目的が分かるとは思っていなかったけど、何かせずにはいられなかったのだ。
コッソリ隠し持っていた庶民風のワンピースを身に纏い、街を歩くと気分は上々。
「セリちゃん、おめかししてどうしたんだい?」
「セリア、今日は良い肉入ってるよ」
道行く人に声をかけられるんだけど、誰かと勘違いされてるみたい。取り敢えず微笑み返しておく。
「あ、セリア!」
突然後ろから肩を掴まれてギョッとして振り向くと、長い赤髪を一つにくくった、お胸の大きい綺麗なお姉さんがいた。
「ちょうど良かった。この魚、騎士団まで持ってってくんない?私ちょっと野暮用できちゃって」
「あ、あの…」
「頼むよ。どうせもうすぐ訓練の時間だから帰るだろ」
そう言うとお姉さんは私の手に魚を押し付けて嵐のように去ってしまった。
「人違い…なんですけど」
私の悲しい呟きを聞く人はいない。
仕方ないから街の人に道を聞きつつ、騎士団へ向かう。道を聞くと変な顔をされたけど、もう気にしない。ごめんなさい、私のそっくりさん。
でも、こんなに何人にも間違われるなんてどれくらい似てるのかしら。私とそのセリアって子。
騎士団の駐屯所は本当に騎士団かと疑いたくなるほど簡素な作りだった。石造りの壁に木でできた屋根、建物の横には洗濯物が干してあって生活感が漂う。
「あのー」
扉を開けて恐る恐る中に入るけど、誰もいない。どうしよう、魚だから取り敢えず台所に持って行くべき?
一階部分は大きな飲み屋みたいになっていて、大小様々なテーブルと椅子、そして高いカウンターがある。台所はカウンターの裏かしら?
カウンターの裏にはやはり調理場があった。
「良かったあ。ここに魚は置いておけばいいわよね」
ほっと息をついたのもつかの間、突然勝手口のドアが開いてゴンと私の額にぶつかった。
「いっつぅ〜」
おでこを抑えてうずくまると
「うっわ!ゴメン、大丈夫?!」
慌てたような声が上から降って来た。
あれ…この声どこかで…?
顔を上げて息が止まった。
肩の辺りで切り揃えられた、サラサラと揺れる銀髪、南の島の海のように透き通った水色の目、スラリと伸びる長い手足。
目の前にいる少女の容姿は髪型以外、私と酷似していたのだ。
「貴方…だれ?」
その時のわたしの間抜けな質問ったらない。でも、驚いたのだからしょうがない。
「私はセリア。ここの騎士見習いだよ。そっちこそ誰?」
セリアの不審そうな目は当然だろう。私は無断侵入なんだから。
「失礼いたしました。私はアリア・レイフィールドと申します。先ほどこちらに魚を届けるように頼まれて、失礼かと思いましたが調理場にお邪魔させて頂きました。」
精一杯の礼儀正しさで身の潔白をアピールする。
「あ、そうなんだ。ありがと」
セリアはあっさりと私の言うことを信じてくれた。
でも、どういうこと?
私そっくりの騎士見習いの女の子なんて… それも、私の家族が謎の行動をするこのアルバート領で。
「あの、差し支え無ければ貴方の年齢を教えて貰ってもいいですか?」
「え、10歳だけど…」
私と、同じ年…
考えられる結論はひとつだけだ。
「大丈夫?顔色悪いけど、家まで送ろっか?」
セリアが私の顔を覗き込んでくる。私にそっくりな水色の目で。
「だ、大丈夫ですわ。ありがとうございます…」
私は踵を返すと走り出した。
早く、早く真相を確かめなきゃ…!




