彼女の秘密
「よっと」
学校の周りに立ち並ぶ2メートル程の塀に側に立っている木を使って飛び移る。
塀に囲まれている事で安心しているのだろう、正面の門と裏口以外に衛兵はいない。
「ここの警備っでザル通り越してワクだよねー」
学校の裏門付近に設置されている女子寮は、確かに衛兵の目に止まりやすいけど、近くにこれ見よがしに立つ木々のせいで侵入してくださいと言っているようなものだろう。
木に登ってから窓枠に飛び移る。
コンコンと窓を叩くと窓が思い切り開いた。
「セリア〜!」
窓から出てきたのは私と全く同じ顔。
「ちょっ、お姉さまうるさい!」
慌ててお姉さまーアリアの口を塞ぐと私は部屋に入った。
まったく、せっかくこっそり侵入してもお姉さまが騒いだら意味ないんだから。
お姉さまは頭良いけどアホなんだよね。
「ごめんね、セリア。でも今日リオン様からソフィー様が怪我したって聞いて。昨日はセリ何も言ってなかったでしょう?」
ソフィーが怪我?
盗賊に襲われた時は特に怪我してなかったと思うけど。
「私が見た限りでは怪我なんかしてなかったよ。帰り道に転んだんじゃない?」
あのどんくさそうな子なら充分あり得る。
「そうなのかしら?」
お姉さまは首をひねる。
「どうせ大した怪我じゃないんでしょ。お姉さまのせいでもないし、気にすることないって」
「セリはクールね」
そう言ってお姉さまは笑った。
さて、読者諸君。この一連の流れで理解していただけただろうか?
私セリアと今目の前で笑っているアリア・レイフィールド公爵令嬢は双子姉妹なのだ。
私たちの容姿はそっくり。顔も、背も、ついでに声も。初めて会った時は死ぬほど驚いた。
でも、私たちが同じなのは見た目だけ。お姉さまは公爵令嬢だけど、私はこの国の果てにある騎士団に所属する一介の騎士にすぎない。温和な性格のお姉さまに対して私は何でも拳で語るタイプ。
昨日森で逢引の尾行をして、盗賊を倒したのはセリア(私)。今日リオンにほっぺをつねられていた方はアリア(姉)という訳である。
分かったかなー?
さて、どうして私たちがこんな面倒臭い入れ替わりをしているのかというとお姉さま曰く『リオン様に真実の愛を無傷で見つけてもらおう大作戦!』らしい。
お姉さまには前世の記憶があって、その記憶によるとこの世界はお姉さまの前世の世界にある娯楽媒体の物語の世界らしい。(正直この時点でよくわからない)その物語の中ではリオンはソフィーと結ばれる運命にあり、お姉さまはそれを邪魔しつつ上手く盛り上げる使命があるらしい。
しかし、リオンがソフィーと結ばれるまでにはいくつかの通り道があり、その中で時々リオンは大怪我をしてしまうらしい。更に、リオンのライバルになる人々にソフィーを奪われる可能性もあり、そうなってしまってはリオンは傷つく。
お姉さまはそれを何とでも阻止し、リオンを『無傷で』ヒロインと結婚させたいらしい。(殿下の婚約者は自分のクセに何言ってるんだろう、この人)
一時は呆れ、どうやって諦めさせるか考えた私だったが、こうなってしまったお姉さまが止まらないのはよく分かっていた。
そこで、お姉さまが危ないことをするよりかはマシかと考えてこの作戦に協力する事にしたのだ。
この作戦内容はいたってシンプルである。
1.リオンが怪我しそうなイベントを見守り、怪我をしそうになったら助ける。
2.リオンの敵となるライバルキャラのカッコいい見せ場を奪う
3.ソフィーをいじめて二人が上手くくっつくように仕向ける
私の主な仕事は1と2。
お姉さまはその『イベント』とやらを熟知しているので、イベントのタイミングで私とお姉さまが入れ替われば良いのだ。
「次入れ替わるのは明後日だよね?」
私がこの部屋にやってきたのはその確認のため。
「ええ。明後日行われる学園長主催の模擬戦に参加して、リオン様のライバル達を蹴散らして赤っ恥かかせて欲しいの。」
蹴散らしてって…
たぶん出来るけどさあ…
「殿下は出場しないの?」
「みんな、模擬戦とはいえリオン様に剣は向けにくいでしょう」
確かに。
「殿下のライバルってどんな人?」
貴族のボンボンに私が負ける訳ないけど、情報はあるに越したことはない。
「えーっとね」
そう言いながらお姉さまは机の引き出しからノートを取り出した。ノートを開くとそこには4人の少年の肖像画とその横にそれぞれの名前とか特技とかが書いてある。
ってかお姉さま絵上手っ!
「攻略者はそれぞれ特技があって、勉強、芸術、運動、モテ男に分かれてるの。明後日の大会で要注意なのはこの人。」
お姉さまが指差すのはイザークという元気で爽やかって感じの男子。名前の下には『伯爵家の長男。剣技に優れておりその腕は学園一。誰にでも優しい皆の兄的存在』と書いてある。
「イザークが優勝した後にソフィーとばったり会って話す場面があるの。そこで、優勝のご褒美にって…わー!ダメ!」
よくわからないけど、優勝させなければ良いって事だろう。
「大丈夫、たぶん勝てるから」
この時の私は、予想外の強敵が現れるなんて微塵も考えていなかったんだ。
次は双子の出会い編です。




