告白
一ヶ月の留学を終え、私が学園に戻ってくるとリオン様ととソフィー様はより一層仲を深めている様子だった。
「リオン様!」
リオン様に駆け寄り慣れた様子で腕を組む姿は私のいない一ヶ月の間にソフィーがどれだけ好感度を上げているたのかを感じさせるに十分だった。
そして、リオン様の様子も。
「ソフィー、走ると転ぶよ」
私が留学から帰ってきてから目も合わせてくれない。
でも、これが本来のシナリオ、そして私が選んだ未来だ。
ただ、気になるのはソフィー様の周りにはリオン様以外の攻略対象者もいること。もともとソフィー様と仲の良さそうだったイザーク様、ソルガ様はさておき、ルートを潰したはずのルース様まで。
あのゲームにハーレムエンドはない。ソルガがリオン様の腹心である以上、どんな形であれリオン様を裏切ることはないから。
セリアの言う通り、この世界はゲームとは違っていて、ソルガ様はリオン様の腹心じゃないってこと?
ソフィーは本当にリオン様を選ぶのかな?
「レイフィールド公爵令嬢、なにか御用ですか?」
知らず知らずのうちに、ソフィー様たちを見すぎていたらしい。イザーク様が私を見て言う。
「いえ、留学から帰ってからリオン様にご挨拶できていなかったので…」
「そうか。ご苦労だったな」
リオン様が私を見て告げたのはそれだけ。
「あの、リオン様。少しだけ2人でお話しさせて頂くことはできませんか?」
少しでも今のリオン様の気持ちが知りたくて、思わずそう言っていた。
「すまないが、しばらく多忙なんだ。今話せないことか?」
「そう、ですか…」
あまりにも依然とはリオン様の態度が違う。やっぱり、ソフィー様を好きになったら私は邪魔者だからかな。
一日中授業にも身が入らず、シェーラ様たちからの誘いも断って寮に戻ると、部屋に一通の手紙が届いていた。
『明日の放課後時間が取れそうだから、西の庭のテラスで話をしよう。 リオン』
筆跡は間違いなくリオン様のモノ。でも何か嫌な予感がする。
でもリオン様の誘いを断るなんて考えられず、私は次の日テラスに向かった。
テラスに着くとなぜかそこにいたのはソフィーだった。
「あの、ソフィー様?私ここで人と待ち合わせをしているのですが…」
「ここは皆のテラスですよ!どうしてそんなこと言うのですか?」
ソフィーの声が庭園中に響く。
「え?」
「私が男爵令嬢だからですか?学内では生徒は平等のはずです!」
何を言われていのか分からず固まっていると、辺りを野次馬に囲まれていた。
「アリア様がソフィー様をテラスから追い出そうとしたらしいわよ」「まあ、ひどい」「リオン様とソフィー様が仲がいいからって」
そんな周りの声に囲まれて頭が真っ白になった私はテラスから逃げ出した。
(仕組まれたんだ。手紙を出したのはリオン様じゃない!きっとソフィーが)
そこまで考えたところで、足を止める。どうして私はソフィー様の仕業だと思ったの?全ては状況証拠に過ぎない。いつもの私ならこんな短絡的な結論を出したりしない。
留学から戻ってから、学園が変わってしまったと思ったけど、変わったのは私自身だったのかもしれない。
頭が全然働かないのを自覚しながら学園生活を送っていると、テラスで起こったようなことが何度も起こるようになった。気づいたら自分が悪者にされている。
寮のベッドで伏せていると、コンコンと窓を叩く音。
「お姉様、顔色が悪いけど大丈夫?」
「セリア、私には覚悟が足りなかったのかもしれないわ」
「覚悟?」
「リオン様の幸せのためなら何でもできると思ってた。でも、リオン様に嫌われていくのがイヤなの。二度と私に笑いかけてくれないと思うと悲しいの」
セリアは微笑んで私の頭を撫でる。
「それはね、お姉様が殿下のことが好きだからだよ。好きな人の隣で幸せになりたいと思ってるからだよ」
「私、最初から間違ってたのね」
リオン様に幸せになって欲しいなんて、聞こえのいい言葉で誤魔化して、現実と向き合っていなかったんだ。
「私は、思ったまま真っ直ぐ行動するお姉様が大好きだよ」
セリが私を優しく抱きしめてそう言ってくれた。セリの匂いは霧がかかっていたような私の頭をスッキリさせてくれた。
***
「リオン様、お話があります」
いつも通りソフィーと話しているリオン様にそう声をかける。
「お時間は取らせません。それに、私はリオン様の婚約者です。私たちにとって必要だと思う話をさせて頂く権利はあると思います」
真っ直ぐリオン様を見つめてそう言うと、
「…分かった。少し移動しよう」
そう言ってリオン様は私の手を取って歩き出した。
休み時間なので、手近な教室に入っても誰もいなかった。
「で、話っていうのは?」
そっけなくリオン様が聞く。
「リオン様はソフィー様を婚約者にしたいとお考えですか?」
「彼女は友人だ。俺の交友関係に一々口出しする気か?」
リオン様は窓の外を眺めたまま言う。
「違います。違うんです…」
気づくと涙が頬を伝っていた。
「アリア?」
リオン様が目を見開いて駆け寄ってくる。
「…好きです。好きなんです、これからも、私がリオン様の隣にいたいんです」
ボロボロと言葉が溢れる。
「私を嫌いにならないでください」
こんなの、ダメだ。支離滅裂だ。何が言いたいのかサッパリわからない。ただの面倒くさい女だ。
「ごめんなさっ」
その先は告げられなかった。気づいたらリオン様に強く抱きしめられていたから。
どのくらいそうしていたかは分からない。
「ごめん。」
落とすようにそう言って、リオン様は教室から出て行ってしまった。




