閑話 ①彼女のいない学園のある日
リリィ・シュミットは大衆小説が大好きである。
特に、個性豊かな登場人物が秘密を抱えて、お互い欺き合い陥れ合うやつなんか最高である。
リリィが最近気になっているのは、ソフィーという名の男爵令嬢である。
「リオン様、おはようございます!」
婚約者のアリアが不在なのをいいことに、恐れ多くも王太子殿下に近づく不届き者。
「殿下、ソフィーさん、おはようございます」
2人に挨拶するのはルース、学園一の秀才である。
「あ、ルースくん!おはよう!」
花が咲いたように笑うソフィー。
「ソフィーちゃん」
ぽん、とソフィーの肩を叩いて登場したのは武術大会優勝者のソルガ。
「なんっなんですかね、アレ」
「そんな俗っぽい言い方しちゃダメよ」
シェーラが呆れたようにリリィを嗜める。
「でも、おかしいですよ!あんなに男の人が集まるなんて…ほら、イザーク・ゼノン伯爵子息まで!」
「まあ、不自然ではありますよね」
頬に手を当ててマーガレットが首を傾げる。
「あまり首を突っ込まない方がいいわよ」
「シェーラ様は悔しく無いんですか?アリア様がいらっしゃらないからってあんな…」
楽しそうにリオンに腕を絡めるソフィー。
「ほら、また!」
「いいのよ。ネタは割れてるんだから」
シェーラの言葉に首を傾げるリリィ。
どこに向かうのか歩き出したソフィーたちはリリィの横を通り過ぎる。その場に微かに甘い香りが漂った。
シェーラがパタパタと持っていた扇で仰ぐと香りは一瞬で消えてしまう。
「そうだ!今日はマドレーヌを作ってきたので、テラスで食べましょう」
マーガレットが微笑んでリリィの腕を取る。
「はい!」
リリィの頭からは、甘い香りのことはすっかり消え去っていた。
「早くアリア様戻ってきて欲しいですね。アリア様がいないお茶会は寂しいです」
リリィ・シュミットは大衆小説が大好きである。
特に、個性豊かな登場人物が秘密を抱えて、お互い欺き合い陥れ合うやつなんか最高である。
しかし、そういう物を好む人間が必ずしも現実の人間関係にも鋭いのかというと、そうでも無いのである。




