最後の攻略対象者
秋、今までギラギラと輝いていた太陽が自己主張を弱め、その代わりに木々が紅く色づき始める季節。秋といえば、食欲、スポーツ、読書…そして芸術だ。そして、貴族というものは殊更に季節感を大事にする。
何が言いたいか、というとそんな季節感のお陰で只今カスティーナ学院は秋の写生大会の真っ最中なのだ。
「この辺りでいいかしら?」
多くの人が集まっている池の畔から少し歩いた所にある小高い丘で立ち止まり、私は言った。
「良いですわね。人も少なくて静かですし」
微笑んでマーガレット様が言う。
私、マーガレット様、シェーラ様、リリィ様の四人は、一緒にお話しながら写生をする為に落ち着いた場所を探していた。私とシェーラ様はさておき、マーガレット様とリリィ様は人に見られるような所で絵を描くのは気が進まなかったらしい。
それは私にも好都合で、ヒロインと新たな攻略対象との出会いを発見、阻止するにはこの丘は絶好のポイントなのだ。
全学年が参加する秋の写生大会で、ソフィーは1つ年下の公爵子息ネイトと出会う。二人で木の上にいた猫を助けた事をきっかけに、人見知りだったネイトが徐々にソフィーに心を開いていくのだ。
プレイしている側が照れてしまうような純粋無垢な青春ラブストーリーに胸がキュンキュンしたのは覚えている。だがしかし!リオン様からすればライバルである。しかも、前髪を切るとイケメンというギャップ持ちの強者。可愛い系男子と侮ってはいけない。
ここからなら写生会場全体を見渡すことができる。周りの景色に細心の注意を払いつつ、ここから見える湖畔をスケッチするつもりだ。
「うーん…」
隣でシェーラ様が唸り声を上げる。
「どうしました?」
「私、絵を描くのは苦手なの。だから簡単なモチーフを探しているんだけど、良いのが見つからなくて」
シェーラ様が苦笑いをして言う。
「私も。なんだか心を揺さぶられふモチーフがありませんわ」
リリィ様が同調したけど、リリィ様の場合は単に気分が乗らないだけだろう。
「二人ともそんなに考え込まなくて良いと思いますわ。見たものを素直に、感じたままに描けばいいのよ」
私の言葉にリリィ様が頬を膨らませる。
「アリア様は絵がお得意だもの。いいなあ」
「去年の写生大会の時のアリア様の絵、飾ってありますものね」
マーガレット様が微笑んで言う。
「あの時は大変でしたわ。廊下を歩くと視線が集まるんだもの」
シェーラ様がいたずらっぽく笑って言った。
去年の写生大会で私はシェーラ様達三人がスケッチをする様子を描いたのだ。まさか、展示されるとは思ってなかったけど。
「あ、そうですわ!今回は私がアリア様をスケッチしよう!」
ポンと手を打ってリリィ様が言う。
「え!」
「あら、名案ね」
「じゃあ私もそうしようかしら」
「ええっ」
私の狼狽にも関わらず、三人は決めてしまったらしく、じいっと此方を見てくる。これはやりにくい…
三人に見つめられながら周りの景色を描くフリをしてソフィー、もしくはネイトを探す。
っていうか、もし二人を見つけたとしてどうやって邪魔すれば良いのかしら?悪役令嬢よろしく登場したら逆に二人をくっつける展開になりかねないし。
「ぼうっとなさってどうしました?」
シェーラ様の言葉に肩が跳ねる。まずい、また考え事に夢中になってたわ。
「いえ、あちらに知り合いがいたので…」
シェーラ様に返したのはマーガレット様。ああ、私の事じゃなかったのね。
マーガレット様の目線の方、つまり私の真後ろを振り返るとフワフワの金髪の小柄な少年がいた。
あれって、もしかして…
「私、ちょっと挨拶してきますね」
マーガレット様はそう言うと立ち上がって小走りで少年に近づく。
マーガレット様が声をかけたのだろう、こちらの方に向けられた少年の顔を見て私は凍りついた。
フワフワの金髪にエメラルドの瞳、その甘いマスクはヒロインに出会うまでは長い前髪に隠されている、はずだった。
マーガレット様が声をかけたのは間違いなく最後の攻略対象ネイト、しかもイメチェン後だったのだ!




