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お祭りデート! 後編

コイツは本当にいつも楽しそうだな。


上機嫌で隣を歩く婚約者は俺の視線に気づいたらしく、不思議そうな顔で此方を覗き込む。


「ご機嫌だな」


目つきの悪さと口調のぶっきらぼうさのせいで、他の貴族にこういう言い方をすると怖がられる。


「はい!とってもいい買い物ができました」


でも、昔から一緒にいるせいかそれとも単に聡いせいなのか、アリアは俺の感情を正しく汲み取ってくれる。


「浮ついてると転ぶぞ」


さりげなく手を取るとアリアは嬉しそうな笑顔を向けてきた。

…いや、百点満点の笑顔なんだけど。男としてはもっとこう…ドキッとかソワッとかそういう反応をして欲しい訳で…


「あ!リオン様、あそこのぬいぐるみとっても可愛いですね!」


まあいいか…可愛いし。


しばらくぶらついて古書店やら文具店やらに立ち寄った。

こうやってアリアと城下を歩ける機会は少ない。お互い忙しいのもあるが、俺の身分のせいもある。でも、アリアは文句ひとつ言わず俺が王子である事を認めて、後押ししてくれる。俺が王子である事を誇らしく思えるのは、アリアのお陰だ。


しみじみとそんな事を考えていると、アリアが「あ!」と小さく声を上げた。


「リオン様、ちょっと急ぎましょう」


そう言うと、アリアは俺の手を引いて歩き出した。


「どこに行くんだ?」


「朝の公園ですよ」


アリアはワクワクした声で答える。


「サーカスでも来るのか?」


「ふふふ、内緒です」


アリアの突然の行動は今に始まったことじゃない。大体、こっちにとっては突然でもアリアにとっては計画通りの出来事なのだ。


ため息をつきながらも自分の口角が上がっているのは自覚している。単純に嬉しいのだ。彼女が俺のために何かをしてくれることが。


朝待ち合わせをした公園に着くとアリアは俺を噴水の前に立たせた。


噴水を背に俺の方を向いて立つ彼女の銀色の髪が夕闇の中で輝く。


「瞬きしちゃダメですよ。5、4、3、2、1!」


ゼロ、とアリアが告げた瞬間、噴水が高く水飛沫を上げた。それに合わせて視線を空へ向けると、上から七色に輝く小さな粒が舞い降りてくる。


掌に落ちるとその粒は水滴になった。


「氷、か?」


空から降っているのは氷の粒だった。

どういう仕組みなのか氷は自らキラキラ輝きながら、ゆっくりと俺たちの下に降りてくる。


「綺麗だ」


思わず口から溢れた言葉にアリアが満足そうに返してくる。


「でしょう。リオン様、昔二人で読んだ北国の本を覚えていますか?」


「…ああ。そうだ、あれに似てるな。夜空に浮かぶ七色のカーテン」


「はい。オーロラです!本物とは少し違うんですが、リオン様すごく見たがってたでしょう」


ふわりとアリアは微笑んだ。


ああ、見たかった。そんなに美しいものがあるのなら、綺麗で珍しいものが好きな自分の想い人に見せてやりたいと。


「お前はいつも、俺の願いを叶えてくれるな」


「当たり前じゃないですか。私はリオン様に幸せになってもらうために生きてるんですよ」


そう嬉しそうに言う氷の妖精が消えてしまわないように、俺は精一杯優しく抱きしめた。


「俺は幸せだよ」


アリアがいれば、いつでも、どこでも、何があっても。


だから信じてくれ。この先何があっても。俺を信じて、少しだけ我慢して欲しい。


『主が動くのが最短でしょうね』


分かってるさ、我が腹心。俺はこの国の王子で、民を守らなければならない。


「…ごめんな」


俺の腕の中でしばらくワタワタしていたアリアが動きを止めた。


「リオン様?」


どこか不安そうに俺を見上げてくる。


「この体勢だとお前が景色を見れないな。そこに座ろう」


アリアの腕を引き、噴水の淵に腰掛ける。


このまま時間が止まればいい。


柄にもなく、そんな馬鹿なことを本気で願った。


リオン殿下、考え事に夢中になりすぎて婚約者が珍しくドキドキしているのを見損ねる。

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