彼が天使に出会った日 3
ヤバイって…いや、ヤバイ。何がヤバイってもう全部ヤバイ。
「おい、そうだよな?」
肩を譲られ我に帰る。
「へい!…って何が?…ですか」
「コイツらが仲間内で急に喧嘩を始めたから止めたんだよな?」
はあ?何いってんだコイツと口に出そうとしたけど、リオンの黒い目が『合わせろ』と訴えてる。
「はあ、そうです。なんか酔ってたんじゃないですか?」
「そうか。しかし、君みたいな子供がこの男達を押さえるとは、凄いね」
柔らかい笑みを浮かべた背の高い男が俺の頭を撫でた。
ムカつくくらいイケメンだなー、この兄ちゃん…
「サナリこいつらの処遇は任せた。」
「はい。畏まりました」
そう答えるとサナリは部下の騎士達に指示を出し始める。
「お前にはこの件で話がある」
そう言ってリオンがヒラヒラと振ったのは俺から奪った依頼書。
やっぱな〜…あーあ、本当に今日はロクな日じゃねえ。
「この依頼ーアリア・レイフィールドの暗殺ーは誰から受けた?」
リオンはグシャリと依頼書を握りつぶして言う。その目は裏でも滅多にお目にかかれないような凶悪な光をたたえていた。
依頼主から聞いたアリア・レイフィールド公爵令嬢はリオンの婚約者という話は本当らしい。
「言えるかよ。こっちにも守秘義務ってもんがあるんだ」
「俺の命令でも、か?」
こえー…
そう思いながらも俺は黙って頷いた。
「これを破ったら裏で生きていけなくなる。この仕事は俺にとってはライフラインなんだ」
「お前、家族は?」
家族を盾にしようってか?
「残念だが、随分前に母親が死んでからひとりだ」
そうか、とリオンは満足そうに頷いた。
「なら、こういう取引はどうだ?お前が情報を渡してくれたら、俺がお前を雇ってやるよ。ここから先、生活に苦労はさせない」
…はあ?何言ってんだ、一国の王子様がこんな小汚いガキを雇うって?
「なんでそこまでするんだ?」
「…アリアを守る為だ。」
少し躊躇ってからリオンは言った。
「アリアが俺の婚約者になったのは俺のワガママだ。そのせいであいつは大変な王妃教育を受けて、その上命まで狙われている。」
リオンの真摯な瞳に若干罪悪感がこみ上げる。
「ところでお前、さっきの連中と揉めたのは裏のルール違反なんじゃないのか?」
「へ?…まあそうだけど」
ニヤリとリオンは笑う。おい、さっきの真剣さはどこ行った。
「なら、もうお前に裏での居場所はないだろう」
「え、あいつら騎士に捕まってたじゃん。王子に手出したんだし、当分…」
そこまで言いかけてさっきのリオンの言葉を思い出す。『仲間内で急に喧嘩を始めた』というあの嘘を。
「ただの喧嘩だからな。留置所で一晩で済むだろうな」
開いた口が塞がらない。
…待て、そもそもあいつらとの喧嘩に俺を巻き込んだのは偶然か?この、人気のない展示場に来たのは?もっと言えば、あいつらの財布をスったのも本当にうっかりなのか?
今回の件で完全に俺は裏での居場所を失ったのは疑いようのない事実だ。
「情報を渡すか?それとも今日から無職になるか?」
チッと思わず舌打ちをしたが、状況は何も変わらない。
「雇ってくれるってのは確かなんだな?」
「ああ」
「…分かった。知ってることは話すよ」
この日を境に、裏でそこそこ名の知れていた“カレハ”という少年は忽然と姿を消した。そして、クランベルク王国の第一王子には新しい手駒…ではなく友人が出来た。やがて彼は王子の腹心と言えるほど信頼されるようになる。
「あー!ってかあの天…女の子どっか行ってるし!」
「ああ、お前の天使か。惚れたのか?」
「いや、顔も分からない相手に惚れる訳ないだろ…たぶん」
「赤いぞ」
「気のせいですー」
次はリオンとアリアのお祭りデートです!




