彼が天使に出会った日 2
「何でアンタあいつらに追われてんだよ?!」
文句を言うことも、状況を改善することも諦めてただ走りながらカレハは褐色少年に聞く。
「お前にやったのと同じだ。スられたからスり返した…つもりだったんだけど、俺の財布はお前にスられてたからただ俺がスっただけになった」
「…バカなの?」
カレハの言葉に褐色少年は黙り込む。
「このまま逃げ続けるとか無理あるよな?どーすんの?」
「王都の騎士がいるところに行く」
「それ、アンタも捕まるんじゃね」
「冷静に話をしなきゃ何も始まらない」
淡々と少年は答える。
(なんか、妙に貫禄ある奴だな…)
少年の後をついて行くと街の外れの方にある洞窟が見えた。
「あれ…?」
少年が困惑した声を出した。
「こんな所に騎士がいるのかよ?駐屯所とか行った方が良かったんじゃないか?」
「いや…ここは結構高値の物が集まる展示場だから必ず騎士が配備されてるはずなんだけど」
誰もいない、と少年は首をひねる。
「まあ、アイツらまけたみたいだしいいんじゃー」
ないのと振り返って言いかけたカレハと目があったのはさっきの男達の一人。
「いたぞ!こっちだ!」
「マジかよ…」
カレハと褐色少年は顔を見合わせて洞窟の中に駆け込んだ。
洞窟の中は赤やオレンジのランタンで照らされていて、ぱっと見でわかるほど高そうな工芸品が並んでいた。しかし、それを護っているはずの騎士はどこにも見当たらない。どうするのかと隣を見ると褐色少年の姿は無かった。
バリーン!
嫌な予感と同時に響き渡ったガラスの割れる音。
「何してんの?!」
褐色少年は近くにあった飾りの騎士の甲冑(鋼鉄製)でガラスケースを叩き割っていたのだ。
「何って…武器が必要だろ」
そう行って褐色少年がこちらに放り投げてきたのは異国風の短剣。
「見つけたぞ!お前ら!」
そこに男達の声が響いた。
「とりあえず、それは隠しとけよ」
ボソッと褐色少年はカレハに告げる。
「さっきはスミマセンデシタ。これは返しますよ」
ひょいっと軽い調子で少年は財布を放る。
「それで許すと思ってんのか?ナメんな!」
男の怒りはまだ収まらないらしい。
「じゃあどうするんですか?」
「お前は見た所金持ちのボンボンらしいからな。とっ捕まえて親から金をゆすり取ってやるよ」
初めて少年が焦ったような顔をした。
「それは…まずいな」
「怪我したくなかったら大人しくしてな」
男の手が伸び少年に触れた、と思った瞬間に男は投げ飛ばされていた。
「はあぁ?!」
驚きで目を見開くカレハを他所に少年は高らかに宣言する。
「怪我する訳にはいかないが、捕まる訳にはもっといかないんだ。ぶっ潰させてもらう」
相手を舐め腐っているとしか思えない少年の言葉に男達は怒り心頭である。一斉に襲いかかってきた。そして言うまでもなくその対象にはカレハも含まれている。
(とんだ迷惑野郎に会ったもんだな!)
半ばヤケになりながら短剣で応戦する。しかし、思うように攻撃が決まらない。もともと彼は二刀流なのだ。
(でも、武器無しであいつは大丈夫なのか?)
チラリと少年の方を見ると、何か護身術を習っているのか軽々と二人の男をあしらっていた。これなら大丈夫だと少年から視線を外しかけた時、視界に何か光るものが映った。反射的に短剣を投げるとキインと硬い音が響き、短剣と共に弾かれた弓が地面に落ちた。
「気をつけろ!奥から狙われてるぞ!」
そう叫んだ瞬間、腹部に衝撃が走る。鳩尾を思い切り殴られたらしい。
「お前は生きて帰さねえよ。裏の掟を破ったんだ、覚悟はあんだろうな」
「だから、それは誤解だって言ってんだろ!」
そう言いながら相手に蹴りを入れてるんだから説得力が無い。
「威勢の良いガキだ」
男の棍棒に脇腹を殴られ、カレハは思い切り吹っ飛んだ。
「かはっ」
咳き込みながら頭を上げると、男の棍棒が振り下ろされる所だった。
もうダメだと衝撃に備え歯を食いしばった。
ーガッ
響き渡った鈍い音にカレハは顔を上げる。目の前にあるのは怒り狂った男の厳つい顔ではなく、オレンジの光に照らされて輝き波打つ金色の髪だった。
「…何してんの?」
アルトとソプラノの間くらいの声が、驚くほど心地よく耳に響く。キラキラ輝く金色の髪は昔教会で見た絵に似ていた。
「天使…?」




