ボールから庇うのは鉄板ですよね!
クランベルク王国は比較的科学技術が進んでいる国だと言える。これは昔から魔術師が殆どおらず、他の国のように魔術師の力を借りる事が出来なかった為だと言われている。結果的にそれが国民の生活の質の向上に繋がったのだが。
何が言いたいかってゆーと、体を動かす事が健康に必要だと分かっている我が国では男女共に体育という科目がカリキュラムに組まれているという話である。
「ソルガくーん!頑張って!」
「キャー!素敵!」
貴族のお嬢様方がそんなにはしゃいでいいのかとお姉さまに聞いた事があるけど、普段礼節と決まりにがんじがらめにされている貴族の子息・令嬢だって、偶には年相応に騒いでもいいだろうと体育の際は大声も奇声も黙認されているらしい。
ご令嬢達が声援を送っているのは球技をやっている男子生徒達である。本当は女子は野外で別種目の予定だったのだが、生憎の雨で男子の見学になってしまった。
「なんだか皆さん普通に体育してる時より元気じゃありません?」
思わず呆れたような声をだしてしまった。
だって見てるだけってつまんないんだもん!
「見るのも楽しいじゃありませんか」
ふんわりと微笑んでマーガレットが言う。
「絶対7番よ!」
「いいえ、11番マークですわ。間違いありません」
「でもさっき…」
なるほど、マーガレットの横ではシェーラとリリィが大盛り上がりで観戦していた。
「シェーラ様はさておき、リリィ様って球技好きでしたっけ?」
私の質問にマーガレットも首を傾げる。
「ですから!絶対エミリー様は11番のシンア様狙いですって」
リリィの言葉にマーガレットがずっこけた。
「なんの観戦をしてるんですか!」
そして律儀なツッコミ。なんか騎士団にいる仲間の事を思い出してしまった。ご令嬢もツッコミとかするんだ…
「観戦者の観戦です」
キラキラとした笑顔でリリィが言う。
「意外と面白いのよ」
「シェーラ様まで…」
マーガレットがうなだれる。
「エミリー様かあ…私は5番だと思うな」
「ええ!アリア様?!」
マーガレットには申し訳ないけど私もこういう俗なのは好きです。
「5番…確かに盲点かも」
リリィが言う。
「あっ、誰か女子が来ましたわよ!」
シェーラ様の言う通り、エミリー様の方へ一人の女性徒がただならぬ雰囲気でやって来た。
「あの方、シンア様の婚約者ですわ!」
「ほら、やっぱり11番狙いじゃないですかあ」
「あっ掴みかかった!」
「嘘?!」「頑張ってー!」「負けるなー」
・・・五分後
「驚きましたわね」
「そうですね。まさか和解して友情が芽生えるとは」
「まず、掴みかかった時点で驚きですけどね」
そこらの町娘でもそんなこと滅多にしないと思う。
「まあ、シンア様は女性に対する距離感が近いので、婚約者様が心配になるのも分かりますわ」
マーガレットが眉を下げて言う。
「片思いくらい許してあげればいいのに」
私の言葉にシェーラが笑う。
「それはアリア様だから言えるんですわ」
「殿下は本当に一途ですものね」
マーガレットも微笑む。
「私はアリア様にもっと他の女性への対抗意識を燃やして欲しいですわ。小説みたいに」
「アリア様にかなう女性なんているわけないでしょ」
リリィをシェーラが冷静にたしなめた。
「それに殿下に本気でアプローチする女性なんていませんわよ」
「そうでもないですよ。最近は」
マーガレットの言葉にリリィが意味深な目つきで応援する女生徒の一角を見た。
「…確かに」
目線の先にいるのはゆるふわ金髪令嬢。つまりソフィーだ。応援しようと思っているけど恥ずかしい、と言うように口を小さく動かしている。そして、ソフィーの目線の先にいるのはリオン。
「殿下に憧れていらっしゃるのは間違いないですわね」
困ったようにマーガレット様が言う。
「殿下のこと名前で呼んでますし」
「殿下と話すときは常に上目遣いだし」
「…まあ、端的に言うと『狙ってる』ってやつですよね」
私が3人の意見を纏めるとみんな揃ってため息をついた。
「まあ、だから何だって話ー」
言いかけた言葉は途中で途切れた。
見学している女子達の方へ男子の投げた豪速球が迫っていたからだ。
頭より先に体が動くのは騎士の性。
気がつくと女子の前に飛び出てボールを受け止めていた。かなり早い球だったらしく受け止めた手がヒリヒリする。
「ったくどこのノーコンば「アリア様!大丈夫ですか?!」
私のついた悪態はすんでのところで鈴のような声に遮られた。
助かった。
振り向くと声の主は先程まで私たちが噂していたソフィー。大きな目を驚きでより見開いている。
「別にこれくらい大したことありません」
私の答えを聞いたソフィーは少し驚いたように目を瞬かせる。そして急に眉を下げると瞳を潤ませた。
「申し訳ありません。私を庇ったせいで…お怪我はなさってませんか?」
たかがボールで何でこんなに心配してるのか分からないけど、泣きそうな顔と口ぶりは騎士団にいる見習いの子たちを思い出させた。敵の攻撃から庇ったときは決まって泣きそうな顔で謝ってくる。
「謝ることないよ。ソフィー様は何も悪くないんだから」
見習いの子たちにするようにポンとソフィーの頭に手を置いた。
「怪我しなくて本当に良かった」
こっちが笑ってそう言えば向こうも笑ってくれる。いつもなら。
「「「き…きゃあー!」」」
ソフィーが何か言うよりも早く、周りから奇声が上がる。
「な、何?」
周りを見ると令嬢達が目にハートを浮かべている。
「アリア様…素敵」「かっこいい…」「私がアリア様に庇われたかったですわ!」「イケメン!」…
ポンと肩に手が置かれる。振り返ると絶対零度の微笑みを浮かべる大魔王ーもといリオン殿下。
「アリア、あとで話がある」
あっちゃー…しくった?
ちなみにセリアは普段の体育では持ち前の運動神経を活かしてソフィーのプレーの邪魔をしています。(運動スキルが上がるとイザークとくっつくから)