おさらいしましょう!
慌ててソフィーを探しに行ったお姉さまを見送った後で次はいつ入れ替わればいいのか全く聞いていなかったと気付いた私はお姉さまの部屋で待機する事にした。
「にしても暇だなあ」
ストレッチもあらかた終わって、お腹は空いたけどお姉さまが帰るまで待ちたいし…
そこで思い出したのが、お姉さまがこの間見せてくれたノートだ。この間は少ししか見れなかったからちゃんと読んでみよう。
パラっとノートを開くとまず、舞台設定と書かれたページ。
『クランベルク王国:中世ヨーロッパみたいな王政国家。その割に妙に現代的な物やシステムもある』
中世ヨーロッパって何?
『カスティーナ学院:16〜18歳の貴族・王族が通う学校。感覚としては大学に近い。大体の人は学校を卒業と同時に結婚・就職する』
そうなんだ。貴族って大変だね。
『星爛祭:毎年夏に行われるこの国一番のお祭り。このゲームのラストステージでもある』
このお祭りは私にとっても大事な日。この日は私が騎士を目指すきっかけになった日だから。
でも、今年の星爛祭まであと3ヶ月もないけど…その間にあのぬぼっとしたソフィーが殿下と両想いになれるのかな?
その次のページには『攻略対象者』の文字。
一番初めに出てきたのは今日模擬戦で当たったイザーク。戦った感覚だと、剣の才能があるのは確かだ。まだ経験不足感は否めないけど。
次に出てきたのは眼鏡をかけた真面目そうな男子。名前はルース。『伯爵子息。学園始まって以来の天才と呼ばれており、テストは常に一位。頭が良すぎて周りのもの全てを下らないと思っていたが、天真爛漫で行動の予測がつかないヒロインに振り回されるうちにヒロインを好きになる』と書かれている。
あれ?学園始まって以来の天才ってたしか…
ま、いっか。
その次はふわふわの癖毛が目を隠している男子で、名前はネイト。『公爵子息だが、5人兄弟の末っ子なので継承権は無いに等しい。幼い頃から病弱で絵ばかり描いており、人見知り。その事で親兄弟から冷たく扱われた過去を持ち、人間不信気味。ヒロインと出会って初めて人の暖かさを知る。注:前髪を切ると美少年』
注意書きは必要?
とりあえず、ルースとネイトは私は相手をしなくてすみそう。
そして、最後の一人がソルガ。今日私が戦って、負けた相手だ。
あー思い出すとムシャクシャする!
ソルガはたぶん私との攻防の間、常に私の剣の同じ部分に負荷がかかるように攻撃も防御もしていたのだ。アルバート騎士団の剣術は少し特殊で剣への負荷が大きい事も仇になったんだろうけど。だからこそ、ソルガの戦法に気づけなかった自分に腹が立つ。
無駄にそっくりなお姉さまの描いたソルガの絵を睨みつけ、ついでに説明も読む。『男爵子息。イケメンで、話も上手いので身分はあまり高くないが女生徒から人気がある。本人も女好きで常に周りに女子を侍らせている。』
…こんな奴に、私は負けた訳?
ソルガに関する過去の情報は無し。それも気になった。
次のページを捲ると二人の女の子が出てきた。ソフィーと、私にそっくりだけど、毛先が縦ロールにカールしているからお姉さまだろう。私とお姉さまの唯一の違いはここだ。同じ銀髪なんだけど、私はストレートでお姉さまは生まれつきの縦ロール。生まれつき縦ロールってすごくない?!
ソフィーの説明書きはこう。『ヒロイン。ど田舎に領地を持つ男爵の一人娘。純粋無垢で心優しい性格。』
まあ、見たまんまって感じだね。よく言えば純粋、悪く言えばお馬鹿さんが私がソフィーに抱いた印象だ。
次はお姉さま。『この国で一番力を持つと言われている公爵家の令嬢でリオン様の婚約者。傲慢で高飛車な性格。主人公を目の敵にしており、特にリオン様ルートで激しく妨害と言う名の盛り上げ役を果たす。』
傲慢で高飛車?お姉さまのどこが…
でも、これはあくまでお姉さまの知っている『乙女ゲーム』とやらの設定なのだろう。この様子だと色々な箇所が現実とは異なっていそうだ。
次のページを開いた瞬間私はパタンとノートを閉じた。
こっわ!
そう、次のページはリオン殿下。ページの初めに書かれた肖像画以外は、全て文字で見開き1ページ丸々びっしりと敷き詰められた文字で黒くなっていた。
いやいやいや、何をそんなに書くことがある訳?!
恐る恐るノートを開いて読んでみる。要約するとこんな感じの事が書かれていた。
『王位第1継承権をもつ王子。文武両道で見目麗しく、女性から非常に人気がある。幼い頃から自分の身分目当てで寄ってくる人々に辟易としており、王子としてではなく「リオン」として自分を見てくれるヒロインに心を溶かされていく』
ページの最後のには大きく『ヒロインにリオン様の心を溶かさせること!』と書かれている。
なるほど、この為にお姉さまは殿下とソフィーをくっつけようとしているのか。
それにしても、と私はびっしりと文字の埋まったノートを見つめる。
お姉さま、キモ…いや、すごいよね。殿下への愛が。うん。
見なかったことにしようと私はノートを引き出しに戻したのだった。