転んでもタダじゃ起きない
心臓に悪いわ!
セリとソルガの試合は苛烈を極めた。あんなの模擬戦じゃないから!刃を落としてあるとはいえ危なすぎる!
っていうかどうしてソルガ様は急に試合に出る事にしたのかしら…?
「アリア様!お怪我は?!」
セリの試合が終わってすぐに私はレイフィールド家のメイドと偽って退場口に潜り込んだ。
「ありませんわ」
額の汗を拭いながらセリアは言う。
「もう!本当に心配したのよ!まさかソルガ様があんなにお強いなんて…」
セリアと二人で隅に移動したから、もういつも通りに話せる。
「うん、予想以上だった。それに、動きが騎士とは違ったんだよね」
セリアは冷静に分析する。
「どっちかっていうと盗賊とかに近いような…でももっと洗練されてた。」
「ソルガ様はドラクロア子爵の養子なの。だから、町で身につけたモノに貴族教育の剣術が混ざったのかもしれないわね。」
それだけでセリと互角にはなれないと思うんだけど。セリも同じことを思ったみたいで「ふーん」とだけ言っている。
「ドラクロア家とはいっても養子か。どうりで」
「何が?」
「あのボンクラの息子にしちゃ出来が良すぎると思ったから」
この子は本当に素直なんだから。
こういう時、令嬢になったのが私でよかったかもしれないと思う。セリアに貴族の世界は狭すぎる。
「そうだ、一個気になったんだけど」
セリの言葉に私は凍りついた。
「お姉さまが言ってた『優勝イベント』ってソルガが起こす可能性は無いの?」
***
セリの言葉でその可能性に気づいた私は、とりあえずソフィーとソルガを探すことにした。セリは「疲れたからパス」だそうだ。
あーもう!二人ともどこにいるの?
閑散とし始めた会場の中には見当たらないので、闘技場の裏手に向かう。そう、闘技場のうらの大きな木の下、そこはイザークの優勝イベントが行われる場所なのだ。
ようやくたどり着いた場所には1組の男女。遅かったか…
「情けないよ。貴族の息子のクセに女の子に負けちゃうなんて」
あれ?今の声ってイザーク様?
「そんなことないです。イザーク様の戦う姿、とても格好良かったです」
ソフィーが上目遣いでイザークを見る。
まさか、負けてもイベントが起こるなんて!恐るべき、イザーク。
「それに、貴族の令嬢があんな風に力を誇示するなんて良くないです。ほかの男の子たちもかわいそう…」
うぐっ。プロの騎士に身代わりをしてもらった身としては心に突き刺さる言葉です。
「私がもっと力のある令嬢だったら、アリア様を止めれたのに…アリア様、リオン様にもしつこく付きまとってるみたいで心配です。」
すいません、すいません。でも、貴女とリオン様のためなんです!
「そんなこと言わないで。ソフィーはソフィーのままでいいんだよ」
そう言ってイザークはソフィーの手をそっと握った。
キャー!素敵!推しキャラじゃなくとも、この場面はイイ!
見つめ会う二人。イザークの頰がどんどん赤くなっていく。
「じゃあ、俺会場の片付け手伝ってくるから!」
イザークは意外と照れ屋なようだ。
パッとソフィーの手を離すと駆け出してしまった。ソフィーはその場に立ちすくんでいる。
これは良い感じなんじゃない?片やリオン様はお弁当イベントに失敗している訳で…どうしよう!もし、リオン様がヒロインと両思いにならなかったら…
画面越しに見た、リオン様の寂しそうに濡れる瞳を思い出す。
そんなのダメだわ!
なんとかしなくてはと決意を固めた瞬間、ソフィーがいる木の下に新たな来客者が。
あれって、ソルガ様?!
「あれ、ソフィーちゃんだ。こんな所で何してんの?」
しまったあぁぁぁ!
「先程の試合が素晴らしくて、感動の余韻に浸っていたんです。」
キラキラした笑顔でソルガに告げるソフィー。
「ソルガ様素敵でした」
ソルガは照れたような顔をする。
「まあ、珍しくけっこう頑張ったからね」
「ソルガ様が皆に見えない所で努力しているの、私にはわかります」
ソフィーちゃんの答えにソルガは目を見開く。
「…まいったな」
どこか泣きそうな目でソルガは言う。
こ、これは…ソルガが初めてヒロインに心動く瞬間だ!リオン様のため、普段はおちゃらけた振りをしつつ、隠れて努力を重ねてきたソルガ。その事に気付いてくれたヒロインを特別な存在だと感じ始めるのだ。
「ソルガ…様?」
何も言わないソルガにソフィーが戸惑ったように声をかける。
「ねえ、いつも頑張ってる俺にご褒美くれない?」
ソルガの言葉にソフィーは笑顔で返す。
「私にできる事なら何でも仰ってください。」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ソルガは右手をピクリと動かすと若干顔を顰めて、左手をソフィーの頰へ添える。
え、え、え。これって、やっぱりー?!
一瞬、触れるだけのキスをソルガはソフィーの頰に落とした。
それはイザークのイベントでしょー!
わざわざセリの助言を受けてソフィーを探し出したにも関わらず迎えた最悪の展開に私は肩を落としたのだった。
転んでもタダじゃ起きない系ヒロインでした。




