千里の道も一歩から
「まさか、あのソルガ様が優勝なさるなんて」
「素敵でしたわ〜」
「でも、今日はお休みなのね」
模擬戦の次の日とあって、学園はまだ昨日の熱が冷めない。
優勝までが怒涛の展開であったのも理由のひとつだろう。
「アリア様も凄かったな…」
「ああ、俺怖くてあの人に近づけないよ」
そして、私の周りからは人が引きつつある。ふふふ、また悪役令嬢に一歩近づいたわね。ナイスよ!セリ!
もう一人の噂の渦中の人物は今日は休みのようだ。これは、セリの予想通り。『アルバート騎士団の剣技を予備知識無しにあの時間受け続けたんだよ?少なくとも3日は腕上がんないよ』ニヤリと笑うセリの顔からは「ざまあみろ」という感情がありありと伝わってきた。
アルバート騎士団の剣は岩をも砕くと言われる程、破壊力の高い特殊な剣術だ。それと対等にやり合ったソルガ様は本当にすごいも思う。
さて、セリアがあんなに頑張ってくれた訳だし私も頑張らないと!
乙女ゲームでは大きなイベントも勿論大事だけど、一番大切なのは日々の小さな好感度の積み重ね。そして、そのきっかけを作るのが私の仕事よ!
例えば、今みたいな放課後のひと時。
帰ろうとしているソフィーがこちらに向かって歩いてくる。
私がすべきは、そう!ソフィーに足を掛けて転ばせるのよ!
え、地味って?こういう地味な嫌がらせが大事なのよ!
ソフィーが私とすれ違う瞬間を狙って足を出そうとする。ところが、ソフィーは私の足が出る前に転んでしまった。中途半端に片足を浮かせた状態の私はよろめいてしまって、こちらに倒れ込んでくるソフィーを受け止めきれない。二人揃って無様に床に転倒した。
「きゃあ!」
ソフィーが驚いたのか大きな声で悲鳴を上げる。
「いてて…」
尻餅をついた私の上にソフィーが覆いかぶさっている。
ソフィーの悲鳴のせいか、周りの視線が私たちに集まる。…恥ずかしい。
「アリア」
冷え切った声の主は勿論リオン様。
いつから居たのか、怒ったように私を見下ろす。うう、覚悟はしてたけど怖いです!
リオン様は未だに座り込む私の脇にてを突っ込むとひょいと私を持ち上げて、立たせる。リオン様は私のスカートの裾を叩いて埃を落とすと、ため息をついて私を睨んだ。
「アリア」
「はい」
うわぁ、怒ってるリオン様もかっこいい…って、そうじゃない!
ここで折れたら悪役令嬢の名が廃るわ!
精一杯の眼力をもってリオン様を見返す。
「ふーん、最近本当に反抗的だな」
「今、私がリオン様に怒られる理由はありませんわ」
嘘です。大事なヒロインを転ばせようとしてごめんなさい。と土下座しそうになるけど我慢する。
「俺が入学時に言ったこと覚えてるか?」
へ?入学?だってその時はまだソフィーと会ってないから…
「スカートの丈は最低でも膝にかかる程度。ショートブーツは履かない。制服で転ぶな」
あー!ありました、そんなこと。
この学校の制服は上は白いブレザーで、下は黒、または紺のズボンがスカート。この世界は中世ヨーロッパ風な癖に、女子の露出に関する考えは緩い。女の子は流石にミニスカまではいかなくても、膝が見えるくらいのスカートは普通に履くし、制服のスカートの丈も規定は無い。履き物も自由なんだけど、何故か私はリオン様に細かく指定されていた。
スカートの丈は膝にかかるくらい、ブーツは膝まで、暑くなければタイツを履く。
どうして、こう事細かいのかと首を傾げたけど、リオン様はたぶん名ばかりとはいえ婚約者にはしたない格好をされるのは耐えられないのだろう。プライド的に。
つまり、私が制服で転んで見苦しく脚を露出した事に怒っていらっしゃるのだ!
「って…そこですか?!」
「他に何がある」
「いや、だってソフィー様が…」
「ああ、その事もだな。受け止められないなら避けろ。大体、こんな廊下で転んだところで大した怪我もしないだろう」
リオン様…冷たい。
うーん、これはソフィーの好感度がまだまだな証拠かしら。もっと頑張らないと!
「リオン様!あの…私…」
ソフィーが訴えるような涙目でリオン様を見る。
「ああ、すまない。君を責めていた訳じゃないんだ」
そう言ってニッコリ微笑むリオン様。あ、お茶会とかでよくやるやつだ。
ソフィーは真っ赤になって俯く。
可愛い!なんてウブなのかしら!
「アリア、今から暇か?」
「はい」
急にどうしたんだろう?
「来週のパーティのドレスを仕立てる。行くぞ」
なるほど。私とリオン様は大体二人でパーティに参加するから衣装も一緒に仕立てる事が多い。リオン様が私の服装にやたら口煩いのも理由の一つだけど。
「畏まりました」
笑ってそう言うとリオン様は私の頭をポンとたたいた。
「もう、子供扱いしないでください」
「どっちかっていうとー…かな?」
ボソッとリオン様は呟いた。
「何ですか?」
「いや。早く行こう」
私はリオン様に手を引かれてその場を後にした。




