帝国蟻《エンパイア・アント》
〇ザイデンバーグ・集会場(夜)
一仕事を終えた冒険者たちが案内されたのは、丸太で組み上げられた巨大な集会場。 (※バイキングのロングハウス風の内装。中央の炉裏で火が焚かれ、木製の長机が並ぶ)
長机の上には、湯気が立ち上る大皿のご馳走が所狭しと並び、芳醇な香りが胃袋を刺激する。
オラフ「さあさあ、遠慮なく喰ってくれ! うちのシェフが腕を振るったザイデンバーグの名物料理! 味はどれも折り紙付きだぞ!」
若手冒険者三人は当惑した面持ちで、目の前の皿を見下ろしたまま固まっている。
テオドール「あ、あの……オラフさん。この料理の材料って……ひょっとして?」
オラフ「おう! さっきお前らが仕留めた『シシカミキリ』だ! 最高に新鮮なやつをソースで蒸し焼きにした! そこにある白いのは、絹を採った後の『銀竜蚕』のステーキ! シチューや串焼きもあるぞ!」
バッツ「やっぱりそうかよ……」
リタ「ひぇぇぇぇっ! 芋虫のお肉ぅぅぅっ!?」
T『黄昏冒険者剣風帖 第三話:帝国蟻』
青ざめる後輩たちを横目に、ヤウルは躊躇なく巨虫の肉をナイフで切り分け、ひょいと口に運ぶ。
ヤウル「ん、美味い。ここのメシは絶品だぞ。一口でいいから喰ってみろ。カミキリはデカいカニみたいな味だし、銀竜蚕は見た目こそ芋虫だが……分類上は『亜竜』の一種だからな」
バッツ「……竜の肉か。……それなら、試してみるか」
意を決したバッツが、フォークに刺した白身肉を口の中に放り込む。
バッツ「うぅ……っ!!」
テオドール「バッツ!?」
リタ「大丈夫っ!?」
バッツ「――うンまぇぇぇッ!! なんだこれ! こんな美味い肉、食ったことねえぞ!?」
テオドール「ほ、本当に……!?」
リタ「ふ、ふ〜ん……。それじゃあ、私もちょっとだけ……」
半信半疑で巨大蚕のステーキを口にするリタ。
その瞬間、少女の瞳の中で星がキラキラと輝く!
リタ「ふわあぁぁぁっ! 何これぇ!? ロブスターみたいな、味が濃い地鶏みたいな……! うわぁ、お父様のお屋敷でもこんなに凄いの食べたことないっ!」
未知の美味は一瞬で見た目の偏見を吹き飛ばした。 若い三人は餓えた狼のように、猛烈な勢いでテーブルの上の料理を平らげていく!
オラフ「ハハハ! 遠慮せずにどんどんやってくれ! 蚕の肉は足が早くてな。食い切れなかった分は干し肉にするか、肥料にするしかねえんだ」
料理を見つめながら、オラフがふうと溜め息をつく。
オラフ「銀竜蚕の生肉を遠くまで運ぶには『氷結魔術』を重ね掛けし続けるしかねえ。おかげで地元民か、都の王侯貴族くらいしか口にできねえんだ。勿体ねえ話だよ」
ヤウルはしばらく黙って料理と酒を楽しんでいたが、会話の切れ目を狙い、オラフに切り出した。
ヤウル「……オラフ。ここに来る途中、帝国蟻の狩猟部隊を見たぞ」
その知らせに、オラフの顔から笑顔が消える。
オラフ「……そうか。実はうちの狩人も、羽付きの奴を見かけたと言っていてな。見間違いであってくれと祈っていたんだが……」
ヤウル「羽付き……騎士蟻がいるのか。そうなると、最低でも50匹以上の群れだな」
オラフ「やれやれ。この間はゴブリンの大部族が丸ごと隣の山に引っ越してきたし……最近は踏んだり蹴ったりだな」
オラフはぶ厚い蚕の肉を一口食いちぎると、身を乗り出してヤウルの耳元に囁いた。
オラフ「……あの新人たちだけで手は足りるか? 厳しそうなら、砦からも自警団を出すぞ」
ヤウル「いや……たぶん、俺たちだけで十分間に合うはずだ」
組んだ腕に顎を乗せ、ヤウルは満足そうに肉を頬張る後輩たちを見つめる。
視線の先には――バッツの顔面に【吹雪】のプチ呪文を叩きつけ、串焼き肉を横取りしているリタの姿があった。
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〇山森の中・山道(翌朝)
背中に巨大な荷物を背負い、山道を歩くヤウルたち冒険者一行。
全員の胸元には、薄いカレンダーのような呪符の束が下げられている。
バッツ「……コラ、おっさん! 待てってんだよ……!」
テオドール「……ヤ、ヤウルさん……ちょっと、休みませんか……っ?」
ヤウル「ん? どうした、もうへばったのか?」
荷物の重さに喘ぐ少年二人とは対照的に、ヤウル、そして意外なことにリタも軽々と山道を踏破していく。
汗だくになったバッツが苛立ちを爆発させ、背負い袋を地面に叩きつける。
――ガチャリ! と金属がぶつかり合う重い音が響いた。
バッツ「ふざけんなよ! 太陽が昇る前に人を叩き起こして、こんなバカでかい荷物持たせて山の中引きずり回しやがって! いい加減、目的地と目的を説明しろてんだ!」
ヤウル「おう、こりゃすまん。急いでたもんで、うっかり説明するのを忘れてた。俺たちはこれから、【帝国蟻】の狩りに行くんだ」
テオドール「帝国蟻って……昨日見かけた、あの黒い魔物ですか?」
テオドールも背の荷物を下ろし、荒い息を整える。
その荷物の奥から、ぐちゃっ と湿った気味の悪い音が漏れた。
ヤウル「ああ、そうだ……別名ミュルミドン。神代の時代、軍神によって創られたという巨大蟻のモンスターだ」
バッツ「なんだよ……こんな大仰な準備して、ただの害虫駆除かよ」
ヤウル「帝国蟻を甘く見るなよ。やつらは普通の『働き蟻』一匹でも、鎧を着込んだ狼みたいなもんだ。それがどれだけ厄介か、狩人なら判るだろ?」
バッツは不満げに鼻を鳴らしたが、ヤウルの指摘に反論はできなかった。
ヤウル「帝国蟻の真の恐ろしさは『数』と『組織力』だ。二十匹の働き蟻と女王だけでも、討伐難易度はお前たちと同じ獣鬼級レベル……。だが、兵隊が増えて巣の規模が大きくなるにつれ、脅威度は指数関数的に跳ね上がり、強力な上級種が増えていく。空を飛ぶ『騎士蟻』、分厚い装甲を誇る巨大な『城兵蟻』、魔術を操る『神官蟻』……」
バッツ「マジかよ! アリンコが魔術を使うだってぇっ!?」
ヤウル「神官蟻と女王蟻の知能は、平均的な人間族に勝るとも劣らん。帝国蟻は木の実を植えて農業をするし、山羊や山鳥を捕まえて家畜として飼育することもある」
(※解説イメージコマ:巨大な蟻たちが設計図を広げて巣を建築し、果樹園の収穫をし、山羊の牧畜を行育しているイラスト風の図解)
ヤウル「――見かけこそ昆虫だが、その実態はエルフやドワーフと同じ高度な文明を持った『知的生命体』なんだよ」
テオドール「そんな恐ろしい奴らが……今、砦のすぐ近くで勢力を広げているんですね……」
ゴクリと唾を飲み、表情を強張らせるテオドール。
リタ「帝国蟻がそんなに頭がいいなら……話し合いで共存することはできないのかな?」
ヤウル「残念だが……蟻と俺たちじゃ精神の構造が違いすぎて、魔術を使っても意思の疎通が図れん。あいつらにとっちゃ、自分たちの種族以外は『すべてただの食料』だからな」
くるりと身体を翻し、再び歩き始めるヤウル。
ヤウル「だから、早めに巣ごと駆除しなきゃならんのさ。蟻どもは変温動物だから早朝は動きが鈍い。今のうちに、砦の狩人が騎士蟻を見かけた現場まで行くぞ」
テオドール「ひぇぇ、もう足が動きませんよぉ〜……」
ヤウル「歩くのも訓練のうちだ。筋力じゃなく『魔力』で身体を動かせ」
バッツ「俺は狩人だぞ! 魔術なんか使えるかよ!」
ヤウル「魔力は万物に宿る。第5位、妖婆級以上の冒険者なら、術士じゃなくても全員魔力の操作くらいこなすぞ」
バッツ「……マジかよ……」
リタ「ほらぁ二人とも! 私に合わせて! 息を四回吸って、四回吐く! リズムに合わせて足を動かすッ!」
バッツ「ちくしょう! ちょっと魔術が得意だからって調子に乗りやがって……!」
テオドール「ハァハァ……息を整える……ッ。スゥ、スゥ、スゥ、スゥ……足をリズムに……ッ!」
荷物を担ぎ直し、ヤウルの後を追う少年二人。
息も絶え絶えに歩く二人だったが――やがてその背中から、うっすらと揺らめく魔力のオーラが立ち上り始める。
それを見届け、ヤウルは満足そうに口元を緩めた。
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〇山林の中・木のない空き地(昼前)
太陽が天頂へ昇りきる前、ヤウルたちは開けた空き地へと辿り着く。
地面にバタリと突っ伏し、荒々しく息を吐く少年たち。
その肩をヤウルが労うようにポンと叩く。
ヤウル「よし、着いたぞ。ご苦労さん。テオ、お前の荷物を貸してくれ」
ヤウルはテオドールの背負い袋から、毛皮の袋に包まれた大きな塊を取り出す。
毛皮を広げた瞬間――ドロッとした異臭が周囲に立ち込め、新米三人が一斉に鼻と口を押さえる!
バッツ「うっ! これって……昨日の……!」
ヤウル「シシカミキリの肉の食べ残しだ。帝国蟻は目が悪い代わりに、聴覚と嗅覚が異常に鋭い。風上に置いておけばすぐに喰いつくはずだ」
テオドール「あ、あの……! そんな強い匂いをさせたら、僕たちまで危ないんじゃ……っ!?」
リタ「だから私とヤウルさんで『臭い消し』の呪符を書いたんじゃない!」
ヤウル「そうだ。これを(胸元の鳥の呪符を指差し)下げている限り、蟻どもにとって俺たちは透明人間も同然だ。すぐ間近に近づかれさえしなきゃ感知されることはない。さあ、今のうちに距離を取るぞ」
バッツ「……おい、俺の荷物はどうすんだよ?」
ヤウル「悪いが、それを使うのはもっと後だ。もう少し担いでいてくれ」
ぶつくさ文句を言いながらも、バッツは重い荷物を背負い直し、ヤウルたちに続いて遠くの藪の中へと身を隠した。
まもなく昼になろうかというときに、ヤウルたちが隠れているのと反対側の、風下の茂みが揺れる。
子牛ほどの大きさの蟻のモンスターが五匹、姿を現した。
蟻たちは触覚で、カミキリの肉を確認すると、大あごで持ち上げ、運んでいく。
ヤウル「食いついた!後をつけるぞ。バッツ、荷物、代わりに持ったほうがいいか?」
バッツ「ハァッ……俺は、元気いっぱいだぜ!」
ヤウル「よし、ではしんがりを頼むぞ。蟻やほかの魔物に回り込まれないように気をつけろ」
冒険者たちは蟻たちの後を追って、静かに森の中を進んでいく。
バッツ(M)『……なんだよ、このおっさん。追跡も、狩人並みにできんのかよ』
ヤウルの玄人以上の追跡術に、バッツは舌を巻くが、それを口に出すことはなかった。
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〇帝国蟻の巣の前(昼)
木々が不自然に途切れ、開けた山肌へと辿り着く冒険者たち。
巣の周りの樹木は敵の死角を無くすためか、強靭な大顎で根元から綺麗に伐採されている。
山肌にぽっかりと空いた洞窟の入り口からは、ひっきりなしに働き蟻が出入りし、削り出された土砂の山が積み上がっていた。
テオドール「……巣の周りにいるのは、15匹くらいかな?」
バッツ「へっ、これくらいなら俺一人で皆殺しにできるぜ!」
リタ「……でも、砦の狩人が見たっていう『羽付き』が見当たらないね」
熱心に議論を交わす後輩たちを横目に、ヤウルは鋭い洞察力で巣の構造を観察する。
ヤウル(M)『……見かけの出入口は一つ。銃眼や煙突の類は無し。典型的な若い女王の巣だな。……抜群の組織力を誇る帝国蟻がこの世界の覇権種族になれないのは、巣同士の意思疎通が存在しないからだ。たとえ姉妹同士でも、違う巣に属すれば知識や経験を共有することはない。……この女王が余計な学習をする前に始末しなければ……』
その時――遠くから響く地鳴りのような重低音が、ヤウルの思索を断ち切った!
バッツ「――地面が揺れる……!?」
テオドール「まさか……そんな……!?」
リタ「うそ……でしょ……?」
藪の隙間から冒険者たちが目撃したのは、黒い津波のごとき凄まじい蟻の大群!
無数の兵士蟻の群れと、空を飛翔する鋭い毒針を持った騎士蟻。そして、彼らの血塗られた大顎に誇らしげに掲げられているのは――
ヤウル「……まあ、少なくとも『ゴブリンの大部族』の問題は解決したな。オラフの頭痛の種が一つ減ったわけだ」
無惨にバラバラに引き裂かれたゴブリンの肉片。それを抱えた蟻の軍勢が、次々と巣穴の中へ吸い込まれていく。
その悪夢のような光景に、新米冒険者三人は顔を蒼白にする。自分たちが同じ運命を辿る姿を想像してしまったのだ。
リタ「……い、いったい何百匹いるんだろ……」
ヤウル「いや、見かけほど多くはないさ。騎士蟻の数は兵士蟻10匹につき1匹程度。今跳んでいたのが6匹だから、遠征部隊は全部で約66匹。ゴブリンと一戦交えた後だから、実際はもっと減っているはずだ」
バッツ「そ、その程度なら……なんとか……」
ヤウル「……まあ、巣の中には幼虫の世話係や休んでいる奴、それに女王の親衛隊もいるから、巣全体の総数は130匹以上ってところだな」
バッツ・テオ・リタ「「「(絶句)」」」
打ちひしがれる新米たちを元気づけるように、ヤウルは明るい声で言う。
ヤウル「心配するな、これはチャンスだぞ。ゴブリンと戦って蟻どもは、疲弊している。手に入れた食料を幼虫に食わせて、兵を補給するのに手一杯で、ここ数日間はスキだらけだ」
バッツ「気楽に言ってくれるけどよ……おっさん、あの化物どもと戦ったことあるのかよ?」
ヤウル「もちろんあるさ。お前たちが今朝までいた『天桑樹の砦』……あそこには昔、バカでかい帝国蟻の城があったんだ。総兵力三千、上位種約三百匹、女王五匹で構成された……文字通りの『蟻の帝国』がな」
テオドール「それを……討伐したんですか!? どうやって……!?」
ヤウル「ギルド総出で総力戦を挑んだ。天桑樹は魔力の集う龍穴でしか育たない。高級な絹を養殖するためには戦うしかなかったんだ。……俺とオラフは、その大戦争の生き残りなんだよ」
リタ「も、もちろん……楽勝で勝ったんですよね……?」
ヤウル「まさか!……何度も死にかけたよ」
ヤウルはニッコリと爽やかな笑みを浮かべて言い放った。
〇帝国蟻の巣の前(夕方)
日が沈みかけ、周囲が薄暗闇に包まれる。
蟻たちの動きが鈍る夕方を待って十分な休息を取った冒険者たちは、静かに行動を開始した。
ヤウルは懐から、もう一束の呪符を取り出す。
彼が起動の呪文を低く呟くと、呪符は自ら折りたたまれ、紙の蝙蝠へと姿を変えた。
紙蝙蝠たちは見張りの蟻の隙を突いて滑空し、次々と巣穴の中へと潜入していく。
ヤウルの脳裏に、使い魔たちが送信してくる巣穴内部の立体地図が展開される。
ヤウル「……思った通りだ。山の裏側に非常用の出口が二つある。バッツ、テオ、こっちへ来い」
ヤウルはバッツの巨大な背負い袋から、鉄の杭数本と乾燥させた、煙幕用の薬草の束を取り出す。
続いてもう一枚の呪符で紙蝙蝠を作り出すと、テオドールの手の上に乗せた。
ヤウル「この使い魔の後をついて行け。裏口を見つけて指定の手順で塞げ。何かあったら使い魔を通して連絡しろ。……ヤバいと判断したら躊躇なく逃げるんだ」
テオドール「了解です!」
指示を待つ間、魔術師のリタは興味津々といった様子でヤウルの手元と呪符を凝視していた。
リタ「……ねえヤウルさん。それって『使い魔』を作るための呪符ですよね?」
ヤウル「……そうだが?」
リタ「でも……その呪符には『遠隔操作』や『音声通信』の呪印が組み込まれてないですよね?」
ヤウル「さすがだ。よく気がついたな」
リタ「ねえねえ! どうやって、詠唱も呪印も無しで、使い魔を操ってるのか教えてくれません?」
ヤウル「悪いが、そいつはダメだ」
リタ「えぇ〜、ケチッ!」
ヤウル「お前は天才だ。教えればすぐに覚えてモノにするだろうさ。だが、それじゃ修行にならん。……それにだ」
ヤウルは胸元に下げた束から、呪符を一枚引きちぎる。
ヤウル「……冒険者ってのは誰しも、親兄弟にも明かせない『切り札』をは隠し持ってるもんなのさ。……さあ、新しい呪符を起動させろ」
〇帝国蟻の巣の入り口(夕方)
巣の出入り口を、4匹の兵士蟻が見張っている。
突然、そのうちの2匹の全身が瞬時に氷結、混乱した残りの2匹も、姿なき刃によって一瞬で首を刎ね飛ばされた!
『臭い消し』よりも強力な『気配消し《ステルス》』の呪符で忍び寄ったヤウルとリタだ。
二人は見張りを手早く始末すると、鉄の杭を地面へ深々と突き刺す。
ヤウルが杭に巻き付けられた呪符を起動させると、鉄杭がまるで植物の根のように伸びて枝分かれし、出入口を完璧に封鎖した。
続いて、乾燥させた薬草の束を積み上げるヤウル。
リタが詠唱で火をつけ、呪符の風を操って濃密な煙幕を巣穴の奥へと送り込んでいく。
ヤウル「……この『黒蓮華』と『マンドラゴラ』を配合した煙幕は、空気より重いうえに素早く充満する。蟻だけじゃなく、小鬼等の洞窟生物全般によく効くが……強すぎるのが玉に瑕でな。人質がいる状況じゃ絶対に使うなよ」
リタ「……は、はいっ!」
〇巣穴内部
巣穴の中はまさに地獄絵図と化していた。
猛毒の煙に追われた蟻たちが、卵や幼虫を抱えながら必死で裏口を目指す。
しかし――出口はすでに鉄の根によって固く塞がれていた。
出口に殺到して大パニックを起こし、次々と窒息していく蟻たち。
さらに、鉄格子のような隙間から容赦なく斧と剣が突き出される!
〇山の裏側・第二出口
ヤウルとリタが裏口へ回ると、そこではバッツとテオドールが返り血を浴びながら、這い出ようとする巨虫へ確実にトドメを刺している最中だった。
ヤウル「上手くいっているようだな」
バッツ「へっ、順調すぎて退屈なくらいだぜ!」
ヤウル「気を抜くなよ。そろそろ奴らが、壁を掘って横穴から飛び出してくる頃だ」
バッツ「わかってるって! そんなこと――ッ!?」
山肌の土砂が勢いよく弾け飛ぶ!
土煙を撒き散らしながら、毒針と羽を持った騎士蟻が飛び出してきた!
バッツ「くそッ、しくじった!?」
バッツめがけて、騎士蟻が毒針から強酸の液体を吹き射かける!
だが間一髪――テオドールが躍り出て、大盾で酸を防ぐ!
バッツ「――テオ、肩ぁッ!!」
騎士の少年の肩を力強く踏み台にして高く跳躍!
空中での斧の一閃が、騎士蟻の胴体を叩き割る!
その足元でテオドールが剣を振るい、這い出してきた蟻を確実に始末する。
(※二人の見事なコンビネーションに、感心して一瞬見入ってしまうヤウル)
N『――この時、ヤウルは二つ過ちを犯した。一つは、少年たちの連携に見惚れ、リタから目を離してしまったこと』
リタ「……あ、あのでかいの……ひょっとして……女王!?」
N『そしてもう一つは――この巣の主の存在を、失念していたことである』
読んでくださって、ありがとうございます!
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作者のモチベがめっちゃ爆上がりします!
よろしくお願い致します。




