懐情
夜も更けて、森の木々も寝静まる頃。
雪の降る音が近づくにつれて、俺の心は奥へと沈んでいく。ぱちぱちと炭が折れるのを目でなんとなく見ながら、生産性のないことばかり考えては1人で静かに笑う。
松の葉で作る炭酸も、この寒さでは凍ってだめだ。代わりに割れ目を入れた栗を火の前に置いて、水分と匂いが泡になって出てくるのを、目をつむって、感じる。
そこでふと、異様な気配を感じた。目を開けて、そっと膝を立てる。
…外から…か?。
まもなくして足音が聞こえてきた。
「人…だな…」
しばらく聞かなかったそれが直感的に「そう」思わせる。俺は暖炉からランプへと貰い火をしてから、一歩、また一歩と進んで、外へ出た。
そして、
「どうかされましたかー!?」
まだ少し距離のある2人に声をかける。
「あぁ、いえー少し道に迷ってしまってー」
片方がそう言う。もう片方は、何か変な様子だ、落ち着かないような、そんな。
「もう暗くて寒いですしー今日はうちで休みませんかー!?」
2人はしばらく何か話あった後に返事をした。
「是非そうしますねー」
2人はまたこちらへ近づく。
…まだだ。
…俺は先に屋内に戻って、その子を起こさぬように布団の奥へと移動させた。
使っていない蚊帳をそっと、されど乱雑に壁に引っ掛けて、さらに隠す。
そして俺は天井の突起にランプを吊るして、玄関の戸を引いた。
「どうぞ、中へ」
「どうもすみません…」
…片方は未だ周りばかりを見ている。…。
「白湯でも飲んであったまりませんか?」
「よろしいのですか?」
「ええ、もちろん」
俺はやりとりを続ける。カメの中に貯めた純水を柄杓で掬いとり、鍋に入れる。彼らは今度は口には出さずに、何か手でサインを送りあっているようだ。
…おそらく彼らは飲まないだろう。
そう思ってコップには入れずに、別々で持っていく。そうして、目の前で水を沸かし、3人分のコップにそっと注いだ。彼らは、その場でじっとしている。
…既に、場は整った。
俺は白湯を目の前で飲んでみせて、
「おや…飲まれないのですか?」と。
「いえいえ、ありがたいことです。」
彼らは、それを喉に通す。
…。
彼らは2人してその場に倒れた。
…初めに、足音、あれは隠されたものだ。
次に、1人が動き、1人が警戒する。
そして、常に相手を探る。
これは…俺もだが。
俺は、自然に、流れるように毒をコップの方に仕掛けた。もちろん自分のには仕込んでいない。
手渡す時もそうだ。一度渡そうとする。だが、受け取らないのを見てからそのまま飲む。もし受け取ろうとすれば地面に置いて残りを入れてその後俺から飲む。
…隠した子どもの方に目を向ける。
俺は、見つけた時から自分と似たようなものを感じていた。
俺の「旅」は終わったが、きっとコイツはこれからだろう。
俺を、踏み台にでもすればいいと勝手に思ってまたふっと笑う。
それにしても、2つも人を片付けるのか…面倒くさいな。また天井を見上げて目を閉じる。
栗の焦げた匂いが、の鼻を刺激した。
「…あちゃ…」
またしても、現実に引き戻されてしまった。




