血の味
「はぁ、はぁ…はぁ…」
逃げる、逃げる、どこまでも。
木々の間を、ただ、ひたすらに。
息が上がるのは、一瞬だった。
走るなんていつぶりだったかもわからない。
「ゲホっゲホっはぁ」
咳まで出てきた、息ができない。
道中、もうたくさんつまずいて怪我をしてしまった。
それでも私は、人のいない方へ、より暗い方へ、逃げ続ける。
足なんて止められる訳がない。
辛い、つらい。
まるで、周りの全てに見られていて、世界の全てが敵であるかのように感じる。
寒い、さむい。
自分がどこへ向かっているかなどわからない、ただ小川を越え、峠を越え、畑に出ては、すぐに森へと戻る。
怖い、こわい。
動物に出会えば殺されてしまうだろうか、人に見つかれば捕まってしまう。
私は枷から外れたはずなのに、ルナの言う自由になれたはずなのに、どうしてこんなに、涙が出るのだ。
意識が朦朧としてくる…
もう、無理だ…、そこに…座ろう…。
私は、開けたギャップの真ん中で横たわった。地面がヒヤリとしていて、心地がいい…。 頬に、月明かりが当たるのを感じる。夜風に吹かれて髪が揺れる。こうしていると、不思議と不安が和らぐような気がする。
「うっ、痛い…」
足の裏からジンジンと激しく痛みが伝わってきた。裸足で出てきてしまったことに、今気づいた。
足に当てた手は、月明かりでもわかるほど、赤く染まっている。見た瞬間、私の視界は、歪んだ。
「逃げるなんて、最初から無謀だったんだ…」
もう、重力が地面に体を縛り付けて、どうしようもなかった。




