3-2.
エリックはパイプ煙草を深く吸って吐いた。
「君の所にも報告は言っているだろうが、ミリアとの結婚生活は1年と持たなかった。」
ミリア。
エリックとアナベルが婚約破棄をした原因でもりあり、エリックが廃嫡となった原因でもある少女。
エリックは男爵令嬢のミリアに恋をした事が原因で大勢の貴族がいる前でアナベルとの婚約破棄を一方的に宣言したのだ。
大きな後ろ盾である公爵家への裏切りとも言える行為に王と王妃はエリックに落胆しあっさりと切り捨て廃嫡にし、エリックとミリアは平民に堕とされた。
エリックとミリアは城から放り出されたので働かなければ生きていけない状況になったが、傲慢で我が儘な2人が真面目に働くなんて明らかに無理な話だった。
エリックとミリアの評判の悪さは貴族間では収まらず平民にまで広がり、悪い評判しかない2人を雇う場所なんてどこにもある筈がなかった。
平民に堕とされた自覚のないエリックは行く先々で上から目線の態度で「僕か働いてやる!光栄に思え!」というので、反感を買うのは当たり前で即座に働く事を断られていた。
さらに、住む場所を探すのに訪れた場所で毎回現地人と大喧嘩をしてその町で追い出されては新しい土地へ訪れる事を繰り返していた。
そんなこんなで城を追い出された時に渡された少量の金も底をつき、まともな食事に有り付けず住む所がない2人は、流れに流れて王都からどんどん遠く離れた場所に気付いたら移動していた。
最終的には王都から馬で20日もかかる程の遠い場所に流れ着いていた。
そこは山に囲まれた小さな町エルカーデから歩いて2時間の町外れの山奥にある長年空き家の小さなボロ屋だった。
エリックとミリアは初めて静かに雨風をしのげる場所を見つけたのだった。
それからそのボロ屋にずっと現在に至るまで住み続けてここにいるのがエリックの大体の経緯である。
「ミリア様はこの小屋での生活が無理でしたのね。」
「穴だらけの空き家を直す方法も、魚や獣の捕り方も、食べられる野草やキノコの見分け方も知らなかった俺に逃げ出すのも無理はないさ。」
ボロ屋だったこの小屋に着いた頃にはエリックもミリアも野宿と空腹に慣れていた。
「成り行きだとしてもここまで俺に着いてきてくれただけでもミリアは凄いと思ったよ。いつでも俺を置いて逃げられたのに・・・平民に堕とされたショックでミリアが頼れるのは俺しかいないと思っていたが、その俺が頼りにならないと解ると目が醒めて俺の元から逃げ出したんだ。」
ミリアはエリックに愛想が尽きて逃げ出した。
ミリアは何も出来ないエリックとこのまま一緒にいたら幸せになれないと思ったのだ。
「これは人づてに聞いた話で君も知っていると思うが、ミリアは遠く離れた国で高級娼館のオーナーになったらしいな。元から娼婦としての才能があったのか知らんが俺のせいで彼女の人生を捻じ曲げた事は言うまでもないさ・・・。」
エリックを捨てたミリアがどういう経緯で高級娼館のオーナーになったかまではエリックは知らないが、話によると王太子を堕落させた美少女としてのネームバリューを利用して上り詰めたそうな。
ミリアが娼婦になったという噂を聞いたエリックはミリアからの決定的な決別を感じ、ミリアの幸せひっそりと祈ろうと思ったそうな。
「ショックではなかったのですか?ミリア様を探そうとは思わなかったのですか?」
「ショックだったさ、探したかった。けど彼女の幸せを壊した無一文の男が夫面して会いに行く事は彼女が苦労して築き上げたの地位と人生を再び壊す事は分かりきっていたからな。だから彼女の幸せを遠くから祈る事にした・・・それでも、もしもミリアが俺の元に戻ってくるようなら黙って迎えてやろうぐらいは思ってはいたが。」
「そうでしたか・・・少し、少しだけ、ミリアさんが羨ましいです。」
「羨ましい?」
アナベルの発言に首を傾げるエリック。
「ふふ、だってミリアさんには戻る場所があったでしょ?貴方の元に・・・・・。」
エリックの元から逃げたミリアがエリックのいる場所を帰ってこれる場所と認識しているかは分からないが、ミリアへの思いがアナベルに伝わりアナベルは遠い目をして寂しく微笑んでいた。
「わたくしには無いもの・・・戻る場所も、帰りたいと思う場所も。」
王太子の王子2人から愛されず、1人を廃嫡にし、もう1人は逃げ出した。
その結果優しかった王夫婦に憎まれ嫌われ、社交界や国民の笑い者になり、味方だった家族や親戚からも憎まれ嫌われてしまった。
だから嫌われ者のアナベルには戻る場所も帰る場所も無いのだ。
「ごめんなさい。話の腰を折りましたね。こう言う所がわたくしの駄目な所なのでしょうね。」
自嘲するアナベルにエリックは困ったように眉を顰めて何て言葉をかけていいか分からなかった。
「エリック様続きを。貴方様がどうやって生きて来たかの続きを。」




