3.何がどうしてそうなった廃嫡王子
野草のお茶をさらに4杯程飲んだ所でやっとアナベルは泣き止んだ。
「彼女はいつもこうなのか?」
アナベルの後ろの騎士に問うエリックに、騎士2人は来まづそうに答える。
「さ、さぁ?王太子妃様はいつも冷静で泣く姿を見せる事はありませが・・・色々あったお話しは聞くので。」
「私共もこのように泣く王太子妃様の姿を初めてみました・・・。」
「そうなのか。」
エリックはどうしたものかとパイプ煙草の煙を深く吸い込んだ。
「ぐすっ、エリック様っ、お願いですっ!わ、わたくしを憎んでおいででも構いませんのでどうか王宮にお戻り願います!どうか!」
必死の様子のアナベルにエリックはパイプ煙草を咥えながら困ったように眉間に皺を寄せた。
「君が俺を連れて帰らずにいたら君の立場がなくなる事は君の様子から察するに分かる。だが、俺が王太子に向かない事は君が1番よく知っている筈だろ?」
「・・・そんな、そんな事は・・・わたくしが、わたくしがエリック様の才能を潰していたのですっ!だって、だって、現にレーゲン様はわたくしのせいで居なくなったではありませんか!」
少年時代のエリックはわがままで傍若無人で、完璧な婚約者のアナベルがいるのに浮気ばかりする最低な王子というのが昔の一般的な評価であった。
それが現在では最低だったエリックの評価が変わり、アナベルが婚約者になったせいで愚か者になってしまい本来は優れた才能の持ち主だったのでは?との噂が王都で広まっていた。
それは兄よりも優秀だと言われていたレーゲンが不倫相手のメイドと逃げ出した事により、王族と貴族達はアナベルの存在に不信感抱きアナベルが愚かなのせいで2人の王子が居なくなったと噂が出来たのだった。
「レーゲン、逃げる度胸があるなら父上に養子を取る事を進言してから逃げればいいものを・・・。」
実の弟の愚か過ぎる行動にエリックは呆れてパイプ煙草を持っていない方の手で頭を抱えた。
「兄弟揃って君に苦労ばかりかけて申し訳ないが今の俺は王太子に戻るぐらいなら死ぬか弟と同じように逃げるつもりでいる。」
「ッ・・・・・そんなっ!」
アナベルは今日1番に傷付いた顔をした。
「あんなに、あんなに、王になりたいとおっしゃっていたではありませんか・・・。王太子の座に戻ったら今度こそ愛する人と誰よりも幸せな暮らしができますし、愛する人を何人作っても誰もなにも咎められないのにッ!」
兄エリックは廃嫡、弟レーゲンは不倫相手と逃亡・・・2人の王太子が城から居なくなった事にアナベルが関わっている。
2人の王子が城から居なくなった事で王太子妃のアナベルだけに操を立てる必要が無くなり、愛する人を何人でも囲っていいと王室事情は大きく変わってしまった。
「政だってわたくしにまかせて遊んでお過ごしになられても許されるのですよ?昔と違ってなんでも貴方の好きなように出来るのです!それでも、それでも!王太子に戻る気はありませんか?」
2人の王子が居なくなった責任を感じているアナベルは自己犠牲を覚悟の上でエリックを元の王太子の地位に戻そうとしていた。
エリックは真っ直ぐに静かにアナベルの見据える。
「君が自分自身を犠牲をしてまでも王太子の地位に戻る程の価値は俺には無い。」
「そんな事ありません!わたくしが貴方様の全てをお支えします!・・・いいえ、わたくしが邪魔なら直ぐに消えて差し上げます!ですからどうか城へ戻り王太子の地位にお戻りくださいませ!」
「断る。俺はここにいたい。ただの平民の男として。お願いだ。放っておいてくれ。」
エリックは深く頭を下げた。深く。深く。
アナベルはくしゃりと顔を歪めた。
これ以上エリックに何を言っても無駄だと理解した。
そして再び声を上げて泣きそうになったが、泣きそうになるのをグッと堪えて微笑んだ。
「廃嫡された後に何があったのか教えてくださいませんか?何がエリック様を変えたのかを・・・折角エリック様に会いにここまで来たのです。そのお話を聞いてから城に帰ってもよろしいでしょう?」
「いいが、面白い話ではないぞ?」
「ええ、是非聞きたいですわ。」




