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15年後、“悪役”二人の望まぬ再婚約  作者: 鈴木べにこ


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2-2.

「殿下、突然のお話しで貴方様が戸惑って断るのも同然でした。お許しください・・・。」



 アナベルはテーブルに頭がつきそうな程深く頭を下げた。



「いや別に・・・その、殿下と呼ぶのを止めていただきたいのですが。」


「でしたらエリック様も敬語を止めてくださいませ。」


「様も、いやなんでもない・・・・・煙草を吸ってもいいかね?」


「ええどうぞ。」




 エリックは部屋の窓を開けると、椅子に腰掛け手慣れたようにパイプ煙草に火を着けると深く吸って吐いた。


 煙草をしばらく吸っているとエリックから口を開いた。




「君がここまで来る程だ。こんな山奥に1人いても町に降りた時に噂は自然と流れてくるからな。だが、まさか本当に、俺を戻す結論に至るとは・・・父上は愚かだ。」



 自分の事を『私』から『俺』と呼んだエリック。


 以前のエリックを知っているアナベルは15年前は自分の事を『私』と呼んでいたエリックが変わったのは見た目だけでは無い事を感じた。

 



「貴方の言いたい事は分かりますわ。だけど、全ての元凶はわたくし。わたくしがいけないの。わたくしのせいでエリック様も………そしてレーガン様も居なくなってしまった。」



レーガンというのはエリックの弟で現王太子だ。

 そのレーガンは現在行方不明だ。

 メイドと駆け落ちをして…。




 アナベルはコップを持つ両手に力が入り、コップの中のお茶に映る自分の顔を見つめた。

 エリックはアナベルが自分が居なくなった後の城で辛い目に合っている事を察し、その原因の一端に自分も関与している事に煙草の煙と共に小さくため息をついた。




「あの頃は未熟なガキで君を解ろうともしなかったが、君は良くやっていたと思う………弟も私も単に王太子に向いていない未熟なクソガキだと思っていたらいい。父上は弟が失踪した時点で、いや、向いていないと思った時点で遠縁から養子を取るべきだったんだ。」




 アナベルとエリックの2人の会話を聞いていたアナベルの後ろにいる若い騎士の騎士2人は、15年前の婚約破棄騒動は話でしか知らないが、目の前に座る髭もじゃの鍛えられた身体の落ち着いた大人の男があの噂の傲慢でわがままで浮気性との最低な噂のある元王太子とはとても思えずまじまじと見つめていた。


 エリックの変化を内心1番驚いているのはアナベルだろう。


 何故なら以前のエリックならお茶を自ら出すような事もなかったし、自分を卑下したりアナベルを褒める様な言葉は絶対言わなかったからだ。


 エリックが見た目も婚約破棄を宣言した16歳の少年だった時の美少年の外見とは変わり、鍛え抜かれた身体に大人の落ち着きとどこか知的で頼り甲斐のある雰囲気の別人になっていた。


 モジャモジャの髭のせいで40代に見えるが、髭を剃ったらハンサムな年相応の大人の男だろうとエリックの綺麗な目元から容姿を伺えた。




「(やはりわたくしと離れて正解でしたね・・・・・立派な大人の男性になられて・・・。)」




 アナベルは心の中で悲しく笑った。


 今の落ち着いた雰囲気のエリックを婚約者時代に見たかったと。




「エリック様から出る言葉に驚くばかりですわ。陛下のお考えは最だと思います。息子が2人とも健全で生きているなら我が子に継がせたいと思うのは普通ですわ・・・それが縁を切った息子だとしても。」


「君の立場があまりよくない事も風の噂でそれとなく知っていたが、命令で廃嫡した俺を連れてこいと言われる程に悪いとは思わなかった。俺たち兄弟のせいで君を不幸にさせてしまったのはすまないと思っている。死んで償えるなら死んでも構わないが、再び王太子に戻るのだけは無理だ。王太子に戻されるぐらいならいっそここで俺を切り殺して欲しい。」



 部屋の中がシーンと静まり返る。


 エリックの王太子に戻るくらいなら死んだ方がマシとも取れるとんでも発言に若い騎士2人は気まずさから部屋を飛び出したい気持ちに駆られる。



「死んで楽になるなら既にわたくしがそうしてます。」



 アナベルは目に涙を溜めてエリックをキッと睨んだ。



「死んでもよいとおっしゃるなら、わたくしに同情してくださるなら、一緒に王宮に戻って王太子になってください!」



 アナベルの悲痛な訴えが小屋に響く。



「わたくしとは名ばかりの夫婦になりますがエリック様の愛する方を側妃に何人でも召し上げても構いませんからっ!」




 ガタンと椅子から勢いよくアナベルは立ち上がり、その拍子に椅子は後ろに倒れた。 


 その勢いは今にもエリックに縋りついて泣き出しそうだった。




「すまない、それでも俺はここでただの平民の男でいたい。」


「どうし・・・ても、ですか?」


「ああ、今の俺はただのしがない木こりだ。ずっと。そしてこれからも。」


「ぁあ、ああーー・・・・あああああああああ!!!」




 その瞬間、アナベルの涙腺は崩壊してボロボロと涙が大量に溢れ子どものように声を上げて泣き出した。


 途端に小屋のドアが蹴破られ待機していた騎士達が入ってきた。




「「「「アナベル様っーーー!!大丈夫ですか!!?」」」」




 

 アナベルの泣き声にただ事ではないと外で待機していた騎士達が小屋の扉を蹴破ったそうだ。


 パイプ煙草片手にもう片方の手で眉間を抑えるエリックとその向かい側で、テーブルに突っ伏して大声で泣き喚くアナベルにあたふたしてる騎士2人という修羅場にも近い状況に騎士達は口をあんぐりとした。




「お前達、金槌と釘をやるからドアを直せ。」




 後に騎士達はあの時のエリックの冷たい視線と威圧感に震え上がったと言っていた。

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