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15年後、“悪役”二人の望まぬ再婚約  作者: 鈴木べにこ


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20.“悪役”はその後

 10年後。


 銀髪に紫の瞳の少年は、家の壁にもたれかかりながら本を読んでした。



「おい、お前。」



 少年が顔を上げると、帽子を深く被った綺麗な顔をした青年がいた。


 青年の隣には顔の火傷を髪で隠した女性もいた。



「お前、親父・・・エリックさんの子供だろ?」


「そうだよ。父さんに何の様?」


「特に無い・・・エリックさんは元気か?」



 少年は首を傾げるが答える。



「元気だよ。」


「お前母親似ってよく言われるだろ。」


「!!!・・・そうなんだ!たまに女の子に間違われて嫌なんだ!全く嫌になるよ!」



 自分の容姿にコンプレックスを持っている少年は熱弁する。



「俺も母親似なんだ。」



 青年の言葉に目を見開く。


 何故なら青年は綺麗な顔はしていたが、男らしかったからだ。



「でもお兄さんは僕と違って男らしいよ?」


「安心しろ。」



 青年は少年の頭を乱暴に撫でる。



「多分お前は俺と同じで、徐々に父親に似るタイプだ。」


「ホント!?なら僕もお父さんに似てムキムキになるかな!」


「ハハッ、多分な!」

 


 青年は帽子を被り直す。



「じゃあな、俺は行くよ!元気でな!」


「うん!元気で!」



 こうして2人の男女は去って行った。



「あの男の人、ちょっと父さんに似てたな・・・僕も父さんやあの人みたいになれるかな?」



 少年の目はキラキラと輝いていた。



 別の場所では、エリックがパイプ煙草を吸いながら書類と睨めっこしていた。


 今のエリックは髭をちゃんと剃り、40代になっても男前は健在だった。


 コンコンとノックの音が聞こえ、入る様に促す。



「親方、お客様です。」



 全身真っ黒のスーツをピシッと着こなした、眼鏡の知的な男性が入ってきた。



「初めましてエリックさん・・・いや、エリック様と言った方がいいかな。」



 エリックは書類を机に置いて、男性を探る様に見る。



「貴方は誰です?土木関係の仕事の依頼ではなさそうですが。」


「正直に言いましょう。私はレイラストからやってきた政府の者です。」



 その言葉にエリックの目つきが鋭くなる。



「そんなご立派な方が自分に何の様で。」



 政府の男はにっこり笑った。



「正直に申し上げましょう。レイラストの王族に、貴殿の子息を養子に迎えたい。」


「なんだと・・・。」



 政府の男は淡々と語る。



「レイラストの王族は今の世代で終わります。王族に不幸が続きまして・・・割愛しますが、子供が出来ませんでした。そこで私達は正統なる王族の血を受け継ぐ高貴なる者をレイラストの次の王にしようと考えました。あえて目を瞑っていたあの噂の王太子殿下の子をね。」


「何を言っているんだか。仕事の依頼じゃないなら帰ってくれ。」


「これも仕事の依頼ですよ。エリック王太子殿下。」


「そいつは事故で亡くなった筈だ。」


「我々の調べでは捏造されていて生きている事になっています。ついでにアナベル王太子妃殿下も生きているとね。」


「仮にその2人が生きていたとしても、戦争を起こした王族だ。そんな王族の血にレイラストは何故こだわる。」


「確かに戦争は仕掛けられましたが、欲しいのは高貴なる血なんですよ。それに・・・。」



 男はモモが描かれた小さな肖像画を机の上に置いた。



「元ガンベール人達は突如として現れた少年王を、本当に王族だったのか否かで世間では今だに討論されているんですよ。」



 男はニコリと笑う。



「何故ならエリック王太子殿下が何度も否定していたという証言に、モモ国王はスラムの出身で母親は娼婦だ。娼婦の息子に血筋の正当性など低いでしょう。」



 政府の男は肩をすくめる。



「突如現れた孫を名乗る娼婦の息子に、国王が籠絡され騙されたと考える者が多く存在するんです。」



 肖像画を指でトントン叩く。



「つまり我々が言いたいのは、モモ国王に王族の血は流れていないと考えています・・・可能性はゼロではありませんがね。貴方に似てるならまだしも、完全に母親に似てるとの話を聞きました。」



 エリックはだんだん不機嫌な顔になる。



「だから元ガンベール人達はモモ国王を王族だと認めてない者が多いという事です。『娼婦の息子から我々の正しい王族を取り戻せ!』と言う者までいる・・・という事はあの新聞の内容を信じていない者も多い。」


「・・・早く帰ってくれ。」



 政府の者はクスクスと笑っている。



「貴方が事故で死んだという記事はモモ国王の嘘だ。当時の貴方は髭で顔の半分以上が隠れて人物画も残っていませんでしたが、アナベル王太子妃殿下は今も人物画のまま美しい。現在、夫婦としてアナベル王太子妃殿下の隣にいる金髪碧眼でマッチョの特徴があるのはエリック王太子殿下、貴方しかいないでしょう。」



 エリックはパイプ煙草を咥える。



「あと、3年もすればこの街にガンベールと繋がるトンネルが出来ます。そうしたらアナベル王太子妃殿下を知る人達と、髭の無い貴方に気付く人もいるでしょう。そして2人の間に子どもがいる事を。王族の復活を喜ぶ者が現れます。」


「気付く訳ない。2人は死んだと新聞にあった。」


「新聞を信じているのは、いったいどのくらいいるのですかねぇ。」



 エリックは煙を政府の男に吹きかけた。



「帰れ。意味不明な話に付き合っているほど暇ではない。」


「貴方の3人のお子さん見ましたよ。あの美貌だ。平民にしておくには世間は黙ってないと思いますよ。王族なら尚更だ。」


「王族じゃない。家族に近付く変な輩は、俺が許さない。」


「やれやれ・・・この調子ですと説得は長期戦ですね。また、改めて伺います。」


「もうくるな。」


「最後に・・・あの毒、誰に使うつもりですか?」


「・・・・・。」


「王族御用達の髪飾りまで売って買った毒ですよ。」


「・・・知らん。帰れ。」


「気になる所ですが、そうさせていただきます。」



 こうして政府の男は部屋から出ていった。



「世間は黙ってないか・・・。」



 エリックはパイプを咥えながら天井を見上げる。



「その時がきたらアナベルと相談して考えるか。」



 エリックは賢い妻の顔を思い出しながらパイプを吸うのだった。



 仕事を終えた帰り道。



「やぁ、親方今から帰りかい?」


「ああ。」


「じゃあこれ持っていきなよ。綺麗な奥さんも喜ぶよ。」


「ありがとう。」



 帰りに声をかけられるのはこれで3回目だ。


 買い物をしかたのように、エリックの両手には野菜や果物が入った布袋が持たされていた。


 今日だけではない、いつもだった。


 エリックは親方としてこの街でそこそこ人気があった。


 我が家に到着すると。


 2人の幼い子どもが自分のお腹めがけてとんでくる。



「パパおかえりー!」


「おかえり!父ちゃんの腹かてぇー!」



 その後ろからアナベルと長男もやって来た。



「おかえりなさいアナタ。」


「おかえりなさい父さん!」




 王族の復活やら、アナベルと自分の正体が世間にバレる心配など、小難しい話にエリックはどうすればいいかわからなかった。


 だが、焦ることはなかった。


 何故なら自分には賢い妻がいるから。


 この先色んなことがあるだろうが、その時には賢い妻が考え、脳筋の自分が動けばいいと思った。


 ただ今は、家族がいる幸せをエリックは感じていたのだった。


 エリックは笑った。



「ああ、ただいま。」




 END


 

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