19-2.
資金は十分にあった。
カリナのおかげで。
「カリナありがとう。」
そして退職願いとエリックに「別の場所で1人で生きていきます。さよなら。」の手紙を用意して、逃げる準備をする事にした。
アナベルは1人で子育てが出来る場所を探すために図書館に行ったり、子育てのやり方を本で学んだりした。
赤ちゃんに必要な物を揃えたり。
アナベルはエリックに内緒で着実に1人で子どもと生きていく準備をしていた。
つわりは軽かったので誰にもバレなかった。
「エリックさんと住めるのもあとちょっとね。」
まさかエリックと大人の関係になるとは。
さらに彼の子がお腹にいる。
昔婚約破棄を突きつけてきた相手の子が。
「ふふっ、変な人生。」
アナベルはつい笑ってしまう。
家に着いてドアを開けると、エリックがいる。
一緒に住んでるから当たり前なのだが、エリックの手に持っている物が問題だった。
退職願いとエリックへのさよならの手紙だった。
「何処に行くつもりだった?」
そしてエリックは怒っていた。
整った顔の男が怒ると迫力があるなと、アナベルはぼーっと思った。
「帰りに先生に言われた。おめでとうと。奥さんを労るようにと。」
それもか。
アナベルほバツが悪そうな顔をした。
正確には仕事の帰りに先生におめでとうを言われたエリックが、アナベルの部屋を漁ったら手紙が出てきて今に至る。
「何故責任を取らせてくれない!何故、女達は俺から逃げようとする?何故なんだ!昔婚約破棄をしたからか!?君を冷遇したからか!?何故なんだ!!」
不確定だったモモとの親子疑惑と違い、今回はアナベルのお腹の子は自分の子だと確実だと思われた。
そして、目の前の女は自分の前から消えようとしている。
理由がわからなくてエリックはパニック寸前だ。
「落ち着いてくださいエリックさん。別に1人で子育てしていけると思ったからよ。貴方の前から消えるのは、貴方が責任を感じない為。私達は本当の夫婦でもなければ恋人でもないでしょ?だから私の好きにするわ。貴方も好きな人でも作って、好きに生きればいいのよ。」
淡々と語るアナベル。
「ちょっと待っていろ。」
突如家から出て行くエリック。
「はぁ・・・何処に行ったんだか。」
アナベルは肩をすくめた。
1時間後。
「結婚してください。」
アナベルの目の前には、跪いて指輪を差し出すエリック。
アナベルは大きなため息をついた。
「だから責任なんて求めてないの!好きでもない女にこんな事しなくていいんですって!」
「・・・確かに恋愛感情はない。だけど、ずっと一緒にいたんだ。気にはなってるし、このまま君と一緒に暮らしていくのも悪くないと思っている。」
エリックはアナベルの左手を取り指輪を嵌めた。
「好きじゃなくていい。愛してなくていい。お願いだ。俺と一緒にいてくれ。」
アナベルは自らの左手を見た。
「何勝手に嵌めてるのよ。」
「頼む。」
エリックは頭を下げる。
「バカみたいですわ。お互い好きじゃないのに。」
つい昔の口調に戻る。
「勝手に婚約破棄されて、今度は勝手に結婚?わたくしの人生なんだと思っているのです?」
「それは・・・すまない。」
「わたくしが恐れている事は何だと思います?」
エリックは数秒考える。
「すまん・・・わからない。」
アナベルは真剣な目で真っ直ぐエリックを見る。
「また不幸になる事ですわ。次、不幸になったらわたくしは生きていけません。」
不幸の連続だったアナベルの人生。
アナベルはこれ以上傷つきたくなかった。
「エリックさんは一度わたくしを不幸しました。そんな貴方がわたくしを不幸にしない自信がありますか?」
アナベルの不幸はエリックからの冷遇と婚約破棄から全て始まった。
だからエリックのプロポーズを簡単には受け入れらけなかった。
エリックはアナベルの両手を握った。
「不幸だと感じた瞬間、逃げてくれ。だから結婚してください。」
「・・・・貴方ってホント不器用で馬鹿ですわよね。」
呆れたようにため息をつく。
「もっと上手い言葉があるでしょうに。」
アナベルは小さく笑った。
「なんて言っていいかこれ以上わからない・・・。」
「貴方の頭の悪さは知っています。」
「馬鹿で愚かな俺と結婚してください。」
2人とも数分間見つめ合う。
「ホント馬鹿ですわ。貴方もわたくしも。」
アナベルは右手でエリックの頬を撫でる。
「いいでしょう、結婚しましょう。」
アナベルは諦めた。
この馬鹿な男をあの町から出して、再び王太子にして再び婚約者になった時点で、自分の運命は決まってしまっていたのかもしれないと。
「その代わり私の言うことには全て服従ですからね。」
「ああ、わかった。ありがとう。」
エリックは優しくアナベルを抱きしめた。
アナベルもエリックの背に腕を回すのだった。
最悪の子ども時代の関係から、結婚するなんて誰が予想出来ただろうか。
2人の関係はただ流されて結ばれただけという人もいるかもしれない。
それも悪役らしいだろう。
普通の男女とは違う。
この2人は悪役なのだから。
そして悪役は舞台から消えたら、ひっそりと生きていくのがお似合いだ。
「エリックさん幸せにする事は誓わなくてもいいです。不幸にしない事を誓ってください。」
「ああ、誓う。不幸にしないと。」
「不幸にしたら今度はわたくしが刺しますからね。」
「ああ、心臓に刺してくれ。」
悪役はひっそりと生きていけばいい。




