12.ワインと婚約者
モモと出会った日の深夜。
ドアをノックする音が聞こえ、エリックはドアを開けた。
そこにいたのはアナベルの唯一の侍女であるカリナだった。
「一緒に来てください。」
廊下を進んでいくカリナについていく。
「何処に行くんだ?」
「アナベル様の所です。」
「なぜだ!」
カリナはピタリと立ち止まる。
「飲んだくれてます。」
「はぁ?」
「だから、飲んだくれてるんですよ!貴方と貴方の息子のせいで!」
「だからってなんで俺が彼女の元へ行く必要がある。」
「・・・・・悔しいですが、アナベル様が心を開いているのはエリックさんだけなんです。」
「君にも心を開いてると思うが。」
「私はただの年下の侍女で、所詮仕事仲間なんですよ・・・それに、アナベル様は私のお茶が飲めないんです。エリックさんのお茶は飲んだと聞きました。」
カリナはちょっと寂しそうに笑う。
「エリックさんのお茶なら飲める、そういう所なんです。」
「・・・俺にはわからん。」
「わからなくて結構です。とにかくアナベル様を慰めてください。アナベル様の婚約者様。」
「その呼び方はやめてくれ。」
本当は嫌だが飲んだくれている理由に自分が関わっているという責任から仕方なくアナベルの部屋に来たエリック。
ドアを数回ノックする。
「どーぞーお入りくださいませー。」
間延びした声から酔っ払ってるのがわかる。
エリックは静かにドアを開けた。
「エリック様ではありませんかぁ~?」
豪華な部屋の中心にある、丸テーブルの上やその周辺にはワインのボトルが何本も転がっていた。
エリックは自分の部屋に戻りたくなった。
「エリック様もいかがですぅ?美味しいですわよぉ~!」
アナベルはグラスの中のワインをクルクル回すとゴクゴクと一気に飲み干した。
直ぐに空のグラスになみなみとワインを注ぐ。
「君は飲み過ぎだ!もう止めるんだ!」
エリックはアナベルからボトルを取り上げた。
「自由もない、友達もいない、愛する人もいない、子供もいない・・・そんなわたくしからお酒まで取り上げるのですか?酷い人。」
グラスのワインを飲み干す。
「悲観的になりすぎだ・・・あの侍女や騎士達からは慕われているだろ。」
「ふふ、年下の子供に慕われている気分ですわ。返してくださいませ!」
ボトルをエリックから取り戻し、再びグラスになみなみと注ぐ。
「なんでそんなに飲んでいるんだ?」
「飲まずにやってられないからですわぁ~。」
またしても直ぐにグラスの中のワインを飲み干す。
「ひっく!・・・エリック様が童貞ならよかったのに。」
「はぁ!?」
「子供がいるなんて羨ましいですわぁ・・・どんなに欲しくても出来なかったもの。」
エリックは何も言えなかった。
「あー!今自分の子じゃないって思ったでしょー!」
「それは、まぁ。」
「可能性があるならエリック様の子も同然ですわ!可能性があるのとないのとでは違いますのよ!それにスラム出身で父親がいないならエリック様がなってあげればよいのです!」
「嫌なんだが・・・。」
「もぉー!これだから兄弟揃って最低なのよー!」
「確かに俺は最低だが、弟と一緒にされたくない。」
「同じ穴のむじなよ、むじな!」
「違う!・・・もう飲むのは止めて寝よう。」
「はぁ?嫌ですわ!婚約者ならもっと甘やかすなり大切にするなりしてくださいませ!」
「婚約した覚えはない。」
「ほらぁそういう所!そういう所が昔から嫌なのよ!」
「どういう所なんだ・・・。」
酔っ払ってるアナベルの相手に疲れてきたエリック。
「あ~なんだか目が回ってきましたわぁ~!ぐるぐるぅ!」
「寝るぞ!」
アナベルの膝下と背中に腕を回してお姫様抱っこをするエリック。
「高い高~い!キャハハっ!」
「こらっ!暴れるな!」
「こんなに楽しいの久しぶりですわぁ!」
楽しそうなアナベルを丁寧にベッドに寝かせる。
「ぐるぐる~!気持ち悪っ!」
「大丈夫か?」
「へーき!これぐらい大丈夫、ですわ!」
「大丈夫に見えんぞ。」
「これぐらい、あの時に比べたら。」
「あの時?」
「あーあ、赤ちゃん欲しかったなぁ ・・・・ ・。」
アナベルの目からポロリと涙がこぼれた。
そして寝息が聞こえるとエリックはアナベルにシーツをかけた。
「子供か・・・。」
エリックはなんだか今すぐ煙草が吸いたくなった。
次の日の朝。
「頭いたい。」
アナベルはワインの空ボトルがたくさん落ちてる部屋を見て。
「飲み過ぎたわ。」
と、頭を抱えた。
「誰か部屋にいたような?」
酔ってる時の記憶を呼び出そうとするが何も思い出せない。
「私の部屋に来るならカリナしかいない筈だから多分カリナでしょうね。カリナに迷惑かけたかもしれないから謝らないと。」
エリックがいたことを思い出せないアナベル。
「エリック様に子どもがいた事に嫉妬するなんてね。」
アナベルは自嘲気味に笑う。
「本人は認めてないけど、エリック様は一応わたくしの婚約者という立場だからわたくしはモモ様の義母になるのかしら?」
実の母ミリアにそっくりなモモの顔を思い出し、アナベルは苦い顔をした。
「ミリアさんに似ているのが苦手かも・・・。」
ミリアとは昔色々あった。
「モモ様の家族のネコ様ってどの立ち位置なのでしょうか?そもそもあの2人って恋愛関係?それとも親愛?そこを聞かないと。もしネコ様の義母になるなら・・・。」
『お母様・・・ありがとう。』
妄想の中でネコの義母になるアナベル。
「悪くない・・・。」
どうやらお気に召したようだ。
「エリック様はモモ様を、わたくしはネコ様の、それぞれの親になればいいですわね♪」
アナベルは久しぶりに気分が良くなって鼻歌を歌った。




