11-2.
アナベルは話を切り替えるようにゴホンと咳をすると真剣な表情になった。
「エリック様の子ではない可能性もありますが、エリック様の子である可能性もあるのです。」
「・・・・・何故認める必要がある。」
「陛下が孫だと認識され、エリック様の子である可能性がある以上、このまま“知らぬ存ぜぬ”では済まされないからです。」
アナベルは淡々と告げる。
「王家の血を引く可能性がある子供を放置した場合、後々必ず火種になります。」
「火種だと?」
「はい。例えば今後、誰かが彼を担ぎ上げ“真の王位継承者”などと言い出したらどうなります?」
エリックの眉がピクリと動いた。
「貴族達は血筋に敏感です。しかもこの子は陛下自ら連れて来てしまった。今さら無関係ですでは通りません。」
「父上の暴走だろうが!」
「ええ、暴走です。」
アナベルは即答した。
「ですが国にとって重要なのは“事実”ではなく、“陛下がどう認識したか”です。」
「…………。」
エリックは言葉に詰まる。
確かに王が「孫」と口にした時点で上の立場の者達は無視できない。
たとえ本当に血が繋がっていなかったとしてもだ。
「ですので必要なのは正式な調査と戸籍整理、そして保護です。」
「保護?」
「この子が王族の血を引くなら尚更、引かなくとも“王の孫候補”として周囲に知られてしまった以上、誘拐・利用・暗殺の危険があります。」
どんどん話がややこしくなる事にエリックは眉間を手で押さえた。
「それに今のエリック様には・・・。」
「俺には?」
「(《《権力》》があるなんて言ったら怒るわよね)とにかく筋肉モリモリの実の父親に保護されることが守る事にも繋がるのです。」
一番大事なところは言わないアナベル。
ここに来て木を切る以外に役に立つエリックの筋肉。
「ちなみに町で木こりをしていたエリック様に暗殺の危険がなかったのは、ちゃんと廃嫡されその後しっかりと放置されて、誰がどうみても見放され価値がないと判断されたからです。」
「そうか・・・。」
多少複雑な気持ちになるエリック。
「私はエリックさんとその子はそっくりだと思いますよ。」
カリナが黒縁メガネを上げながら言う。
「「どこがだ!」」
声が合ったエリックと美少年。
「ほらもう合ってる。昔からいる騎士が言ってましたよ。『堂々と廊下を歩く姿がそっくりだ。』って。」
「勘弁してくれ!歩く姿だけで判断されたら敵わん!」
「それは俺の台詞!俺はアンタみたいな脳筋じゃないしね!ハッ!」
美少年は鼻で笑う。
「なんて鼻に付くガキなんだ!」
プンスカ怒るエリックにアナベルは心の中で思った。
「(鼻に付く所も若い頃のエリック様に似てるのよねぇ・・・・・。)」
アナベルはパン、と書類を机に置いた。
「とにかく。エリック様には一旦“後見人として責任を持つ”という形を取っていただきます。」
「断る。」
「断っても、このお方はエリック様の息子同然です。責任を取るのです。」
「何故そうなる!」
「エリック様の管理下に置いた方がこの子も安心でしょう。2人は親子なんですから。」
「「違う!!」」
「(また合った。)」
美少年が面倒臭そうにソファへ深く座る。
「つーか、王族だろうが貴族だろうが俺はどうでもいいんだ!ただネコが安心して贅沢して住める場所があればいいんだよ!」
「は?猫?お前ペットでも連れて来てたのか?」
「は?違う!ネコこっちこいよ!」
すると部屋の隅っこで息を潜めていた小柄な少女が美少年の隣に並び立つ。
「わたしがネコです。すみません。」
ネコと名乗った少女は顔半分を黒髪で隠していたが、少し動くたびに顔の下の酷い火傷跡が見え隠れした。
エリックはついその見え隠れする火傷跡をじっと見てしまった。
「何じろじろ見てんだよオッサン!」
「す、すまん!」
美少年の言葉にエリックはサッと目を逸らした。
「ネコは俺の大事な家族だ!ネコを贅沢させれるって聞いたからここに来たんだ!それが無理なら今すぐネコと一緒にここを出ていく!」
「・・・分かりました。ちゃんとネコ様にはお城にあるお部屋をご用意し、ドレスや宝石類などのプレゼントもご用意致します。」
「当たり前だろ。」
「このガキ!王太子妃殿下に無礼だぞ!」
「ハッ!だから?」
生意気な美少年に怒りを露わにするエリック。
2人は無言で睨み合っている。
「そういえば!報告書にも貴方様のお名前がなかったのですがお名前は何なのですか?」
美少年はそっぽを向いた。
「名前なんてねーよ。」
その場にいるエリック・アナベル・カリナの大人3人は『は?』という顔になった。
「どういう事だ。」
「あの女は俺を産んで直ぐに捨てた。その後は色んな奴に適当な名前で呼ばれて生きてきた。だから名前なんかねーよ。」
エリックは美少年のその言葉だけでどれだけ苦労して生きてきたのかが分かってしまった。
「(ミリア・・・。)」
産んだ子どもを捨ててしまう程、生きていくのがやっとだったのではないかとミリアの事を考えてしまうエリック。
エリックは目の前の少年少女を見る。
格好はボロボロで苦労が伺えた。
「オッサン何同情した目で見てんだよ!ぶっ飛ばすぞ!」
見た目だけなら天使だがとても口が悪い。
エリックの同情心は一気になくなった。




